今回は、インドのビジネスマンの仕事観や働き方について説明します。※本連載は、株式会社インド・ビジネス・センター代表取締役社長・島田卓氏の著書『インドとビジネスをするための鉄則55』(アルク)から一部を抜粋し、インドでビジネスをするための様々な基礎知識をご紹介します。

日本人が主に接するのは、管理職や官僚などのエリート

Q.インドの人は一般的にどんな仕事観を持っていますか?どんな働き方をしますか?

 

A.企業の管理職や官僚は、残業もしますし、休日も返上して猛烈に働きます。ただ日本の仕事人間とは違い、家族もとても大切にします。

 

インドのGDPは世界第9位ですが、12億人を超える国民の経済格差ははなはだしく、日本のようにどんな働き方をするかを考える余裕のある人はごく一部に限られます。約3割の人は1日1.25ドル以下の支出で暮らし、生きるために必死で稼ごうとしていることを頭に入れておきましょう。貧困の削減には働き口が必要ですが、人口の約半数が25歳以下で、毎月100万人が新たに労働人口に加わるため、雇用創出がとても追いつかないのが現状です。

 

職を得ることがいかに困難かは、ウッタル・プラデシュ州発の2015年9月のニュースでも明らかです。役所がお茶くみ係と警備員、計368人の求人をしたところ、なんと州の人口の約1%にあたる230万人が応募したというのです。この新聞記事を読んだときにはさすがに驚きました。

 

一般的に日本人がビジネスで接するのは、企業の管理職や官公庁の官僚といった人々です。それらの人たちは必要なら残業もしますし、休日も返上して猛烈に働きます。

 

ワーカホリックのような人もいますが、日本の仕事人間、猛烈社員とは少し違います。

 

日本の仕事人間が何より仕事を優先するのに対し、インドのやり手は家族も大切にします。日本ではプライベートは後回しにされがちですが、インドでは家族と過ごす時間を捻出し、それ以外の時間で集中して効率よく成果を出そうとします。親の死に目に会えないのも仕方ないといった考え方はなく、親族に不幸があれば何をおいても駆けつけます。

 

効率を高めるため、複数のことを同時に進める手法もよくとられます。極端な例として、自動車部品で急成長を遂げたサンバルダナ・マザーソン・グループのビベク・チャーンド・セーガル会長[★]は、ゴルフ中に書類にサインをしていました。アシスタントがついて歩いてプレーの合い間に書類を差し出すのです。

★1983年に住友電装と提携した零細企業をグループ売上約8000億円超の世界企業に育てた。

ホワイトカラーとブルーカラーの給与格差は拡大傾向

一般的なオフィスワーカーは、定時に退社します。インドは国際労働機関(ILO)に加盟しており、労働補償法、労働組合法、労使紛争法、最低賃金法など各種の労働法が定められています。各企業は労働協約を定めていますが、全般的に福利厚生などはまだまだ十分には整っていません。

 

給与については、IT関係の高度技能保有者は工場労働者の20倍以上を稼ぐなど、有能なホワイトカラーとブルーカラーの格差が広がっています。ボーナスは年間支給額がボーナス支給法で定められており、最低で年収の8.33%、最高で20%です。

 

定年は一般的に58〜60歳です。退職金は「1972年退職一時金支払法」により、10人以上雇用している企業で5年以上勤務した労働者には支払いが義務付けられています。しかし、社会保障制度がまだ確立されていない状態にあり、日本のように年金制度も発達していないため、定年後も働く人が多く見られます。

 

そうした事情もあって、福利厚生が充実し、給与も比較的高く、年金もある公務員の求人に対しては、特に応募者が殺到します。

 

また、有能な人材は何歳になっても引く手あまたで、役員や理事として手腕を発揮し続けます。インドの平均寿命が65歳と短いことには幼児死亡率の高さが影響しており、年配の経営者の存在は決して珍しくありません。スズキのインド四輪子会社マルチ・スズキ・インディアのR・C・バルガバ会長も80代の今なお活躍しています。

超難関の「IIT大卒」なら初任給で年収2000万円超!?

インドは日本以上の学歴社会といわれます。超難関のIIT(インド工科大学)はデリー、ムンバイ、チェンナイなどに現在16校あり、ここで優秀な成績を収めた超エリートたちは「IITブランド」として、ちまたの就職難をよそにキャンパスリクルートで青田買いされます。

 

学歴により就職できる企業、職種、給与には大きな差があり、IIT卒業者の初任給は年収1000万ルピー(約2000万円)を超えることもあります。これに対して、一般的な大卒エンジニアの初任給は都市部であっても年収40万ルピー(約80万円)から、事務職では10万ルピー(約20万円)程度です。

 

以前は超難関以外の大学では、ほとんど出世は望めないともいわれていましたが、現在は海外留学などを経て企業の要職に就く人も増えています。卒業後、上級国家公務員(IAS)試験を受ける道もありますが、合格率0.2%という狭き門です。

 

近年では大学を卒業してすぐに会社を興す若者も増えてきました。日本のように挑戦が失敗に終わっても非難されず、そこから学んで次の挑戦をすればいいという考え方をするので、起業には向いているお国柄といえるでしょう。

 

また、ステップアップのために転職することが一般的で、1年のうちに約30%が離職していきます。インド人はプライドが高い人が多いせいか、同期のライバルが昇進すると、他の会社に移るケースも多く見られます。

インドとビジネスをするための鉄則55

インドとビジネスをするための鉄則55

島田 卓

アルク

これまでインドとまったく接点がなかったのに、会社から突然インド担当を命じられた! そんなビジネスパーソンが知っておきたい、インド社会の基礎知識、仕事を着実にこなすコツ、マナーやNG行動、インドで生活するための情…

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