税理士考案の巧妙な手口が“バレた”ワケ
本来のターゲットであった司法書士は、誠実に記帳し、A子とB子に支払った給与を除けば不正経理がない。よって、架空給与を否認するものの、同額の営業権譲渡対価を経費として認めなければならなかった。つまり、所得金額はいってこい。所得税の追徴税額は0円だ。
それどころか、給与として支払った4,800万円は消費税の仕入控除にならないが、営業権の譲渡対価なら課税仕入に該当するため、消費税240万円相当を還付する羽目になった。
一方、先代は仮装・隠蔽行為(営業権収入の隠匿)によって5年間で4,800万円の申告漏れを指摘し、所得税と消費税を合わせた追徴税額が1,300万円、重加算税490万円を賦課した。もちろんここに住民税の追徴税額が加わる。
国税局の審理担当は、営業権の譲渡対価を分割払いにしたのは支払能力を考慮したものであって、7,800万円を一括で課税するべきとの見解を示した。
しかし、契約書には万が一司法書士が死亡した場合や、継承後に売上が大きく減少した場合などの支払額の取り決めがなく、すべての返済が確実に履行される保証がないため、実際に金銭の動きがあった(架空給与として支払った)5年間で課税処理を終了させた。
さて、取り上げた「営業権を給与に仮装して支払う」脱税スキームを描いたのは税理士だった。先代から頼まれて提案したスキームの裏契約をしてから4年が経過し、先代が“うっかり”自分の妻A子を控除対象配偶者にしてしまったことが、脱税スキームを見破る「パズルのキー」になった。
“従業員の年齢が空欄”という決算書に残った小さな違和感が、大きな脱税の解明に結びついた事案だった。
上田 二郎
元国税査察官/税理士
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