総資産200億円以上の超富裕層は、ほとんどが企業経営者
いまの中高年には聞き覚えがあるはずの「一億総中流」というワード。昭和40年代以降に行われた「国民生活に関する世論調査」の回答として、自身の生活水準を「中の中」としたものが最も多く、「上」あるいは「下」とする回答が合計で1割未満だったことが、このワードの根拠とされる。
ところが平成バブルの崩壊以降、国民生活は次第に二極化が進み、いまとなっては埋められない大きな差となっている。いわゆる「勝ち組」と「負け組」は、すでにまったく別次元の生活を送っているといっても過言ではない。
筆者も以前メガバンクに勤務していたが、そこでしばしば出会うのが、総資産10億円くらいの一般的な富裕層だ。彼らは親から不動産や金融資産を相続したケースが多い。一方で、総資産200億円以上の超富裕層になると、ほとんどが現役の企業経営者か、過去に企業経営者だった人々だ。
なかでも、親から承継した事業をM&Aで売却して老後生活を送る高齢者は、多額の現預金を持っていることから、金融機関では「ハイエンド」や「ウルトラ・ハイネット・ワース」と呼ばれている。
「日本に見切りをつけて海外移住」は本当か?
マスコミでは、貧しくなった日本に見切りをつけて超富裕層が海外移住…といった報道もなされているが、実際には、完全に移住するケースはそこまで多くない印象だ。理由は、海外に移住してしまうと国内に居住する子どもや孫と頻繁に会えなくなるため。資産を維持するためにそこまで振り切れる人は、まだ少数派なのだ。
だが一方で、海外移住には、相続税の節税になる側面もあるため、心惹かれている富裕層も多い。
子や孫と一緒に10年間、相続税ゼロの外国に住むことができれば、海外に持ち出した財産に相続税はかからなくなる。しかし、アメリカにも相続税は導入されており、「相続税ゼロ」を目的とした移住先となると、シンガポール、マレーシア、オーストラリア、カナダなど、選択肢は限られてしまう。
子弟への教育熱は高く、そのために海外不動産を購入することも
子どもや孫の学校を考えると、10年間もシンガポールやマレーシアで生活するのはあまり現実的とはいえないのだが、子弟を一流大学に進学させるためアメリカへ留学させるケースは多く、その点から、アメリカ不動産購入のニーズは一定数ある。
その場合でも、アメリカ本土に不動産を購入するケースはあまりなく、ハワイに別荘を持つというパターンが多い印象だ。
富裕層に人気があるのは、オワフ島よりもマウイ島、ワイレアなどの高級リゾート地で、ビーチに近い別荘を1棟購入する場合は、中古物件でも価格は10億円程度になる。購入は現地の不動産業者に紹介によるもので、現地での生活費のため、ハワイの銀行で預金口座を開くことになる。
超富裕層は、タワマン生活が肌に合わない!?
そんな彼らの日本での暮らしぶりはというと、東京出身者の場合、親から相続した不動産を持っていることが多いことから、たいていは23区内の一戸建てで生活している。
地方出身の場合は、港区のマンションに住んでいるケースが多いが、有名なタワーマンションより、麻布、赤坂、三田などの超一等地にあるヴィンテージ・マンションが好まれる。
タワマンを好むのは、高所得サラリーマンのパワーカップル、あるいは総資産10億円程度の一般的な富裕層でも、自力でビジネスを立ち上げるなどした、一代目の社長が多く、代々の資産家出身者はあまり見かけない。
タワマンに暮らすいわゆる「成功者」は、アグレッシブなタイプが少なくないが、そのなかには自己顕示欲が強い人や、常識にとらわれない横紙破りな人もいる。ときに共用部の利用にまつわるマナー違反や騒音問題といった、住民同士のエゴがぶつかるようなトラブルも起こるが、超富裕層は、そういった問題からできるだけ距離を取り、静かに穏やかに暮らしたいと考える人が多いためか、タワマンは避けがちだ。ひと言でいうなら、住環境が肌に合わないのである。
また、近年では投資目的で購入する外国人オーナーが増え、環境が落ち着かないことも、超富裕層が敬遠する理由となるようだ。
たまに超富裕層の子弟が暮らしていることがあるが、数年でひっそりと退去し、やはり、ヴィンテージ・マンションや超高級住宅街の一軒家へと居を移していく。
ゆとりがあって楽しそうだが、実態は「案外地味」
普段の生活のなかでは、夫婦で外食に行くほか、近隣のホテルのラウンジで気軽にお酒を飲む人も多い。これも住まいの立地がいいからこその楽しみ方だろう。
健康にはかなり気を配っており、毎日のようにスポーツクラブに通っている人も珍しくない。ゴルフの愛好家も多く、週末になるたびゴルフへと出かける人もいる。
自家用車は、フェラーリやマセラティといった人目を引くクルマよりも、メルセデス、BMW、ポルシェ、レクサスあたりが多いように思う。
金融機関との付き合い方だが、金融資産が数十億円規模のマス富裕層の場合は、スイスやシンガポールのプライベートバンクに証券口座を持ち、投資一任勘定で運用している人が多いのだが、金融資産が200億円超クラスになると、ほとんどが国内のメガバンクと証券会社で取引しており、積極的な資産運用はあまり行っていない。
これらのことから見えてくる超富裕層の生活だが、決して派手ではないものの、ゆとりをもって好きなことを楽しんでいるといったところか。
岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
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