国税庁がマークしていた「インボイス制度」導入前の脱税スキーム…年商5,000万円の個人事業主が「2年1ヵ月」で廃業するワケ【元マルサの税理士が解説】

国税庁がマークしていた「インボイス制度」導入前の脱税スキーム…年商5,000万円の個人事業主が「2年1ヵ月」で廃業するワケ【元マルサの税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

映画『マルサの女』で有名になった国税局査察部(通称マルサ)。特定の税務署に設置される「特別調査部門(トクチョウ班)」はその登竜門ですが、トクチョウ班は案内板にも職員録にも記載されない“シークレット部隊”だと、元マルサで税理士兼住職の上田二郎氏はいいます。上田氏が「トクチョウ班」統括官時代の経験から、「消費税法改正」に大きな影響を与えた脱税の事例を解説します。

雇い主が廃業後、従業員に雇われている…申告書に見えた「謎」

このX社の動きを見破ったきっかけは、歯科技工士(個人事業主)Aの“不自然な廃業”だった。

 

Aは開業1年目、2年目とも約5,000万円の売上で申告していたにもかかわらず、3年目に入りたった1ヵ月で突然の廃業。しかし、ひと月の売上だけで400万円もある。Aにはその下に10名の従業員がいるが、こんなに売り上げているのに突然の廃業では困るだろう。「消費税逃れでは?」との疑念が浮かんだ。

 

こうなってくると、怪しいのはAに「外注費」を支払っているX社だ。申告書を確認すると、買掛金(支払先)の内訳から新たに不審な歯科技工士が浮かび上がる。正確ではないが、おおよそ2年ごとに外注先の歯科技工士を変更しているようだ。

 

X社の過去7年間の申告書から外注先の歯科技工士をすべて抽出し、KSK(国税総合管理システム)端末で検索すると、脱税スキームの全体像がくっきりと浮かび上がってきた。

 

歯科技工士の申告に着目すると、

 

・平成14~15年分は歯科技工士A、B、Cが個人事業主として確定申告書を提出している。そしてそれぞれ、AにはDを含む10名が、BにはEを含む10名が、CにはFを含む10名の従業員がいる。

 

・16~17年分になると、歯科技工士D、E、Fが個人事業主として確定申告書を提出している。そして、今度はDにはBを含む10名が、EにはCを含む10名が、FにはAを含む10名の従業員がいる。

 

・次に18~19年分を見ると、A、B、Cが再び個人事業主になっている。

 

6年間を並べて分析すると、単に個人事業主が入れ替わっているように見える。

 

これでも十分“不自然さ”を感じるが、18~19年分の申告に小さなミスが見つかる。従業員の動きに着目すると、16~17年分に個人事業主として申告していたFが、18~19年分に個人事業主に返り咲いたAに雇われていたのだ。

 

個人事業主だった者が失敗して廃業することは実社会では珍しくない。しかし、不自然に感じたのはFが廃業し、自分の従業員だったAに雇われたことだ。資本主義社会でこの逆転劇は珍しい。

 

サラリーマンなら人事によってあり得るが、個人事業主が廃業して自分の従業員だった者に雇われることがあるのだろうか……筆者は疑問に思った。

 

これが「本当に起こった世にも珍しい逆転劇」と考えるよりは、誰かに差配されていると考えるほうが合理的だ。差配したのは、A~Fのすべてに外注費を支払っているX社に他ならない。

 

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