昼寝のコストはゼロだが、もしその時間アルバイトをしたら…?
昼寝にはコストはかかりません。しかし、昼寝をしている時間だけアルバイトをすればアルバイト代が稼げるわけですから、昼寝を選択することでアルバイト収入を得る機会を失うわけです。
それを「アルバイト代を得るチャンスを失っても昼寝をしたいのか否か」と考えるのが「機会費用」という考え方です。ほかの選択肢で得られるものが、この選択肢の機会費用だ、ということですね。
実際に費用がかかっているわけではないので、気付きにくい場合も多いのですが、「別の選択肢のほうが、さらによいのではないか?」と考える習慣をつけると、機会費用の考え方が身につくかもしれません。
学生のサークルが、活動費用を稼ぐために学園祭で焼き鳥屋をやったとします。学生たちが「3万円儲かった!」などと喜んでいるところに水を差すわけではありませんが、学園祭の期間中、全員が本物の焼き鳥屋でアルバイトをしたら、30万円くらいになったはずです。
まあ、学園祭の焼き鳥屋は皆でワイワイいいながらやるのが楽しいわけで、それでも構わないのでしょうが、「27万円儲ける機会を逃してまで、ワイワイやる価値があるほど楽しかったのか?」を考えて、来年の学園祭に参加するか否かを決めよう、ということでしょうね。
少額の黒字のために「機会費用」が意識されにくいケース
都心のオフィスビル群の中にポツンと平家があり、パパママストア(家族のみで運営する零細小売店)が営まれているとします。パパママストアの経営が赤字なら、「店を閉じて土地を売ろうか?」という検討がなされるのでしょうが、少額の黒字を稼いでいる場合には、そうした検討がなされない場合も多いでしょう。
店を閉じて土地を貸せば、いまの収入よりはるかに高い賃料収入が見込めるでしょうから、「機会費用を考えると、パパママストアは大幅赤字だ」といえるわけですが、表面的な数字が黒字であるがゆえに、そこに気づかない人も多いのです。
パパママストアの場合、郊外にあっても、機会費用を考えると赤字になっている可能性があります。店を閉じて2人で働きに出るだけでも、現在の収入より多く稼げる可能性があるからです。
機会費用の考え方は、大企業においても重要です。無駄な会議や無駄な資料作りは、それ自体に費用がかからないために気楽に発案する人がいるかもしれませんが、「会議に出ず、資料を作らずに客を訪問していたら大いに儲かっていたはずだ。会議や資料作りの機会費用は非常に高いのだ」という場合もあるからです。
大企業が社内のエリートを集めて新規事業部を立ち上げたとします。何年経っても少額の利益しか稼げていない場合、社長はイライラして「エリートを大勢集めた部署なのに利益が少なすぎる! もっと頑張れ!!」とゲキを飛ばすかもしれません。
しかし、そんな部署をさっさと解散してエリートたちを社内の別の場所で活躍させれば、もっと大きな利益が、もっと簡単に稼げるかもしれないのです。新規事業部が何年経っても赤字なら、新規事業を断念するという選択肢を思いつくのでしょうが、少額の黒字を稼いでしまっているがゆえに、事業部を閉じるという発想が浮かばなかったのだとすれば、残念なことです。
「営業部長はバス、平社員はタクシー」のほうがいいケース
客を訪問する場合、営業部長はタクシーで、平社員はバスで行く、という会社は多いでしょう。営業部長は偉いのだからタクシーに乗るのは当然だ、ということなのでしょうが、純粋に利益を追求するという観点で考えてみましょう。
営業部長は時給が高いから、バスで移動している時間を惜しんで働いてもらった方が会社のためだ、という考え方はあるかもしれません。しかし、それが正しいか否かは営業部長の時給が高い理由によります。
仕事ができない人が年功序列で部長になり、優秀な新入社員が平社員、という場合もあるでしょう。営業部長は宴会で客の心を掴むのが得意だが昼間の仕事は不得意だ、という場合もあるでしょう。そういうときは、平社員がタクシーで移動し、部長がバスで移動するほうが会社の利益になるのです。
平社員がバスに乗って時間をかけて移動している間に、もし彼(彼女)がタクシーを使って短時間で移動し、多くの客先を訪問することができたら、多額の利益につながっていたかもしれません。そう考えると、平社員がバスで移動することの機会費用は大きいわけです。機会費用を考えるとタクシー代のほうが安いかもしれないわけですね。
一方、営業部長がタクシーを使って移動時間を節約したところで、どうせ注文が取れないのなら、タクシー代がもったいないですね。バスで移動することの機会費用が小さいわけですから、タクシー代を払わずにバスで移動してもらいましょう。
まあ実際には、筆者が考えるほど社内政治というものは簡単なものではないのでしょうが(笑)。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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