先進国は、中国の経済発展で「ズル」への態度を変えた
しかし、中国の手法の中には、世界における公正な競争の規範から明らかに逸脱するものがあり、中国の成長に伴って、その逸脱ぶりがより大きな問題となってきた。
中国経済が比較的小規模で、低レベルの技術の製品を主に生産していた頃は、豊かな国々はそうした手法を無視する余裕があった。
だが、今や中国は世界第2位の経済大国で、中国政府は半導体や電気自動車、人工知能などのハイテク産業において、中国がリーダーとなれるよう野心的な目標を設けている。前述した不公正な手法の4つの領域のうち、知的財産権の侵害について子細に見ていこう。
中国以外でも、かつて知的財産権の侵害が多くなされてきた
知的財産権の侵害についても、先進国への技術的なキャッチアップを目指した国々なら、ほぼどこでも経てきたことではある。
19世紀初め、米国に初めてできた大規模な織物工場は、つまりは産業スパイのような行動によってつくられたものだった※。
※ フランシス・キャボット・ローウェルは、当時の効率的な織物生産に欠かせない織機の図面を買うことができなかった。そこで彼は、英国のランカシャーにある工場にうまく言って入り込み、米国で再現できるよう、織機を注意深くスケッチした。1820年代における織物の役割は、現代における電子機器に匹敵するものである。ローウェルがしたことは、現代で言う産業スパイのようなものだと考えられる。
第二次世界大戦後の日本や韓国や台湾は、ある部分、西側技術のリバース・エンジニアリングやコピーに依存しており、それは西側の特許ルールの侵害だった。
ここでのポイントは、知的財産権の侵害が道徳的に正当化できるということではない。そうではなく、ある国が十分な知的財産権を持つようになり、盗むよりも保護した方が得るものが大きいと判断するまでは、このようなことがよく行われるということだ。
「盗む」から「保護」へのシフトが米国で起こったのは19世紀中頃、東アジア諸国では1980年代から90年代だった。中国では知的財産権専門の裁判所の設立と、いくつかの違反に対する刑事罰の適用という形で始まった。
それでも批判されるべき中国の知的財産権の侵害
とはいえ、中国の知的財産権の扱いは、批判され得る点がいくつかある。
第一に、中国の発展は、知的財産権の保護が19世紀よりも強い時代、さらに言うと第二次世界大戦直後よりも強くなってから起こった。中国はWTOに加盟する際に、知的財産権の高水準の保護に同意している。したがって、約束を果たしていないことについて法的な責任を問われる可能性がある。
第二に、中国の知的財産権の侵害は非常に大規模であり、関連する法制度は非常に脆弱で、政治がそれに影響を及ぼす。そして中国政府は、外国企業が中国市場にアクセスする条件として、合弁会社の設立を求めるなどの公式な手段や非公式な圧力などを通じて、技術移転を求めた。
中国政府の主張では、外国企業は(中国事業で得ようとしていた利益をあきらめて)そのような契約を結ばない自由があるのだから、技術移転は自主的なもので、強制したものではないという。一方、外国企業は契約の際に、本当に重要な技術の移転を制限するといった手段を講じ、その点では巧みだったと言える。
しかし、中国の技術移転の要請は、先進諸国における許容範囲を超えている※。
※ 2018年3月の米通商代表部 〈USTR〉 による中国の貿易慣行に関する調査は、政治的な文書ではあるものの、中国が求めた技術移転について示しており、そうした技術移転を認めないとする国際的な公約に中国が違反し続けていることを示している。以下を参照のこと。USTR,“Findings of the Investigation into China’s Acts, Policies and Practices Related to Technology Transfer, Intellectual Property, and Innovation”(March 27, 2018).
アーサー・R・クローバー
香港金融調査会社ギャブカル
リサーチヘッド
※本記事は、THE GOLD ONLINE編集部が『チャイナ・エコノミー 第2版』(白桃書房)の一部を抜粋し、制作しました。
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