※画像はイメージです/PIXTA

米国の中国に対するスタンスはトランプ政権時代に劇的に変わり、それは、トランプ政権への反感を露わにしているはずの現在のバイデン政権にも概ね引き継がれています。本稿では、香港の金融調査会社ギャブカルのリサーチヘッドであり、米国の米中関係委員会(NCUSCR)のメンバーでもあるアーサー・R・クローバー氏による著書『チャイナ・エコノミー 第2版』(白桃書房)から、現在の米国の対中政策の考え方を解説し、今後を考察します。

米国の対中戦略、3つの骨子

米国政治の中枢にいる人たちは、中国に対して今後数十年、どんなスタンスをとるのが適切なのかを活発に議論している。この議論は、米中関係が複雑であることと、それに関わる利益の性質のため、まとまるまでにまだ何年かかかりそうだ。

 

それでも、大幅に単純化すると、この議論は次の3つの大きな視点を互いに戦わせていると捉えられるだろう。
 

1つ目の視点は、国家の安全保障を中心とした見方だ。すなわち、中国の台頭は、米国の世界的なリーダーシップ、および、アジアにおける米国の安全保障上の利害に、少なくとも深刻な課題を突き付けるものであり、米国主導の国際秩序が危機に陥ることさえあるかもしれない、という見解だ。

 

この見解に組み合わされるのは、経済的ナショナリズムの視点で、米国の繁栄は略奪的な中国によって脅かされており、両国の相互依存関係は縮小すべきであるという考え方だ。

 

2つ目の視点は経済学とビジネスに根差したもので、米中の経済的な相互依存関係は、商業的にも安全保障的にもメリットがあるという見方だ。この見解では次のように考える。中国の巨大で急成長する市場は、米国企業の将来的な成長の源として重要である。

 

また、米国企業が世界の技術の最先端に居続けられるかどうかは、中国市場に参加し、そこで得られる利益と人材、製造効率を活用できるかにかかっている。

 

米国企業と中国の関わり合いの範囲はすでに莫大なものであり、それを元に戻す、あるいは縮小しようとすると、米国経済に大きな損失が生じかねない。

 

2015年以来、中国は米国の貿易額全体の16%ほどを占め、これは1980年代の日本と同程度、ソ連やその後継諸国との比較でははるかに大きい。しかも、米国企業は中国の国内市場で大きな存在となっており、約7万社が中国に何らかの事業拠点を設け、中国で5440億ドルを売り上げている。

 

その額は米国の対中輸出額の3倍以上である([図表1]および[図表2]参照)。

 

原注: 1991 年まではソ連のデータ、それ以降は独立国家共同体(CIS)のデータ。 出典:US Census Bureau.
[図表1]米国の貿易(輸出+輸入)に各国が占める割合 原注: 1991 年まではソ連のデータ、それ以降は独立国家共同体(CIS)のデータ。
出典:US Census Bureau.

 

出典:Bureau of Economic Analysis.
[図表2]米国企業による対中輸出と中国国内での売上 出典:Bureau of Economic Analysis.

 

3つ目の視点は、非自由主義化を強める中国の政治システムに目を向けたものだ。

 

これは価値観をベースにした見解で、この見方によると、中国国内では権威主義と抑圧的な政治が強化され、世論に影響を及ぼす取り組みが進められて、国外では中国共産党への批判を封じようとしている。

 

それによって、米国の中核的な価値観のみならず、自由主義的な世界秩序全般にも深刻な脅威となると考える。

 

米国が取るべき「対中政策」の理想

中国に対する米国の新たな戦略は、安全保障と、経済、価値観への関心の3つを、少なくともある程度ずつは組み込むものでなくてはならない。

 

そのような政策を立案するのは、簡単なことではないだろう。今後数年間の米国の対中政策は、2016年以前のものと比べると、協力とコラボレーションよりも、競争と対立に焦点を当てたものとなりそうだ。

 

しかし、冷戦時代の対ソ連政策のような完全な封じ込め政策を始めようとする行為は、経済への視点によって和らげられるだろう。

 

その視点からは、経済での継続的な相互依存関係は、米国のビジネスに利益をもたらすだけでなく、長期的な安全保障の面でもメリットがあると論じることができる。

 

なぜなら、そうした関係によって、中国が世界の経済秩序を根本から変えようとする力に制約がかかり、軍事衝突のコストが上がるからだ。

 

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チャイナ・エコノミー 第2版

チャイナ・エコノミー 第2版

アーサー・R・クローバー

白桃書房

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