会長・社長への提案
黒田「会長、業務ご多忙のところお時間を頂きありがとうございます。本日は、江戸税理士法人から当行に出向し、税務面において手伝ってもらっている加藤も同席させていただきます。会長にとっていいご提案になるかと思いますので、一度お話を聞いていただければと思います。それでは早速、加藤から説明をさせていただきます」
加藤「加藤と申します。昨年から関東銀行へ出向で参っております。本日はよろしくお願いします。(作成資料を会長・社長に手交)現状の相続税を試算して参りました。すでに、顧問税理士さんからお話を伺ったこともあるかもしれませんが、この度は第三者的な観点から検証を行っています。会長が個人でお持ちの不動産や預貯金や保険を含む金融資産、上杉印刷の株式を合計すると、(資料の数字を指して)おおむねこの程度となります」
黒田「会長や社長は、この相続税をご覧になられていかがでしょうか」
会長「まあ、このくらいはするかな、とは思っていたよ。頑張って長生きするので、そのあいだに社長に納税資金を十分稼いで確保してもらうしかないね。はっはっはっ」
黒田「そうですね。ただし、かなり高額であるので相続税額を減らすことも検討されてはいかがかと思います。私のほうで先般許可をいただいたハウスメーカーのA社にてプランを作成して貰いました。会長がお持ちの『上杉第二駐車場』に賃貸アパートを建築することで、相続税を引き下げることができます」
(黒田はプランを提示し、付帯費用を含む建築費の総額やアパートの収支を説明)
黒田「このプランをもとに、建築後の相続税を計算したものを加藤から再度説明いたします」
加藤「概算ではありますが、建物を建築することで会長の課税資産は概ね相続税の基礎控除と同程度になると見込まれます。したがって、社長を含むお子様方には相続税はかからないものと思われます」
会長「ふむ、なるほどね」
黒田「いかがでしょうか。当行としてもプロジェクトにかかる建築費については全面的にご支援させて頂きたいと考えております」
(しばらく会長と社長は神妙な面持ちで考えている)
社長「黒田さん、私はしばらく黙って聞いていたけれど、この提案はあまりにも酷いだろ」
黒田「どの点が酷いのでしょうか。私としても上杉家のことを考えて提案書を纏めて参ったところです」
社長「それなら、はっきりいうけど相続税が圧縮されるといっても、その数字は建築直後だけであり、会長は長生きするために日ごろ健康管理を続けているし、また代替わりしたばかりの私が独り立ちできるよう陰ながらサポートをしようとしてくれている。この提案は親父に『早く死ね』といっているのと一緒だし、私にはお宅の提案からそう感じたよ」
(声を荒げ出す社長)
黒田「決してそんなことは」
社長「建築プランだってそうだ。一例をあげれば賃料も下落しない想定だし、空室リスクもろくに考えていない。うちが駐車場として続けているのは賃貸アパートはリスクが高いと考えているからであって、過去にもいろいろと検討したがすべて断ってきたんだ。黒田さんは上杉家のためといっていたけど、私からしたら自分の融資成績をあげたいためだとしか伝わらないよ」
黒田「……」
社長「それに、仮に賃貸アパートを建てても私はずっと管理を継続していかなければいけないが、黒田さんはそのうち異動するんだろうから、申し訳ないが当事者意識が欠けているよ」
結論
コンサルタントして見かける事例として、提案内容が「お客様のため」といいつつ、その実は「営業マンの営業成績のため」であるケースを散見する。なかには銀行員の提案だから間違いないだろう、といった思い込みによって、鵜呑みにしてしまうケースも。
客観的な立場で数字を確認し、なにが正しくてなにが間違っているのかを分析のうえ、行動に移すべきだ。多くの情報を集め、客観的に意思決定をしていくことが自己防衛の観点からも重要といえる。
小俣 年穂
ティー・コンサル株式会社
代表取締役
<保有資格>
不動産鑑定士
一級ファイナンシャル・プランニング技能士
宅地建物取引士
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