(※画像はイメージです/PIXTA)

終の棲家として存在感が高まる「老人ホーム」。入所にあたっては、家族間の話し合いと入所する本人の納得があればベストだが、なかなか理想通りには運ばない。ある独身女性は、いまも母親を老人ホームへ入所させたことで後悔の念にさいなまれるという。

人生の最期を迎えたい場所は、やはり「自宅」が多数

人生最後の場所を迎えるとしたら、私たちはどこを選ぶだろうか。日本財団『人生の最期の迎え方に関する全国調査』によると、最期を迎えたい場所として最も多かったのは「自宅」で58.8%であり、年齢別では「67~71歳」が58.0%、「72~76歳」が56.7%、「77~81歳」が62.6%だった。

 

誰しも、住み慣れた場所で穏やかに旅立ちの時を迎えたいということだろう。

 

公益財団法人 日本財団『人生の最期の迎え方に関する全国調査』によると、実際に、アンケートを受けた人からも、安心できる場所で、自分らしく、家族に囲まれ、自然に旅立ちたい…という回答が散見された。

 

また「病気に入院して、色々と費用をかけたくない」との声もあり、なじみのない場所で旅立つのは抵抗があるようだ。

 

一方、親から「最期は自宅で」といわれた子どもは、それなりの懸念もあるようだ。最も多かったのが「どのくらいの期間が必要かわからない」が45.7%。おそらくこれは、介護にかかる費用と労力についての懸念点であり、「何をしたらよいかわからない」の41.5%は、親が望む通りの対応ができるか自信がない、ということだろう。以降、「仕事と両立できなさそう」37.4%、「専門的な能力が必要そう」32.4%と続く。

 

いずれ親は旅立ち、子は見送る立場になるわけだが、上記のアンケートを見る限り、双方による腹を割った話し合いはあまりなされていないようだ。

 

実際に、人生の最期にまつわる「葬式・墓」「医療・療養」「相続」「最期の迎え方・場所」についていずれかでも話し合った経験があるかを問うと、子世代では46.2%が「まったくない」と回答。約半数の子が、親の意向を把握していないことになる。

親子共倒れにならないために「老人ホーム」という選択肢も…

年を重ねるごとに健康リスクは高まり、75歳以上になると3割、85歳以上になると6割以上が要介護認定となる。介護が必要になった際、まずサポートするのは、やはり家族だ。厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』によると、介護人の45.9%が同居する家族であり、「同居する配偶者」が全体の22.9%、「同居する子ども」が全体の16.2%を占める。


要介護度も軽いうちはそこまで負担はないといえるが、要介護度3になると、介護時間は「ほとんど終日」が31.9%、「半日程度」が21.9%。要介護度4では「半日以上」が6割とまで負担は増え、要介護度5では8割に達する。おそらく仕事との両立は難しく、介護離職も視野に入ってくる状態だ。

 

介護で共倒れにならないためは「老人ホーム」という選択肢が現実味を帯びてくるが、やはり費用面が気がかりとなる。

 

老人ホームの入居に際し、まずかかるのが入居一時金。これは家賃の前払いのようなもので、金額はゼロ円~億単位とピンキリだ。一般的には300万~1,000万円程度というケースが多い。入居後にかかるのが月額利用料だ。施設ごとに含まれているサービスは異なるため、それ以外を利用する場合は別途実費分の請求があるケースもある。月額利用料は平均15万~20万円程度で、別途2万~3万円程度、実費が請求されるというのが平均値となっている。

 

厚生労働省の調査によると、厚生年金受給者の平均年金受取額は、併給の国民年金と合わせて、65歳以上男性で17万円、女性で11万円。月額利用料を毎月の年金のなかで納められれば理想だ。

「私がお金をケチったのですよ」

佐藤美香さん(仮名)は50代の独身会社員。いまも老人ホームで亡くなった母のことが思い出され、後悔の念に駆られるという。

 

佐藤さんの母親はお嬢様育ちで、一度も働いたことがないのが自慢だったという。父親が亡くなったあとも、すべての事務的作業はひとり娘の佐藤さんに丸投げ。頼みごとがあると、どんなタイミングでも遠慮なく連絡をよこしてくるのだという。

 

「父が健在だったときは、父がつきっきりで母のお守りをしていたので、問題ありませんでした。しかし、父が亡くなると、私にその役割が回ってきて…」


なにか気になること、欲しいものがあると、仕事中でも、夜中でも「ねえ、美香ちゃん?」といって電話をかけてくる。電話に出ないと、何十回も呼び出し音を鳴らす。

 

あまりに大変なので、実家に帰って同居をスタートさせたが、仕事で家を空けるならほとんど意味がないことが分かり、佐藤さんは途方に暮れた。

 

周囲に相談したところ「老人ホームに入れた方がいい」とアドバイスされ、なかばだまし討ちのようにして母親を有料老人ホームに入れたのだという。

 

「それが、入居して半年ぐらいでしょうか。だんだん認知症のような症状がでてきて…」

 

佐藤さんに母親は、施設入居後、1年半で亡くなってしまった。

 

「自宅にいてもらえば、母ももっと長生きしたかもしれません。ですが、それでは働けません。ほかに選択肢がなかったと思うのですが…」

 

佐藤さんの母親が入居したホームは、入居金は300万円、実費分入れて毎月の請求は25万円程度。母親の年金が10万円弱だったことから、貯蓄から15万円ほどを取り崩して支払いを行っていた。

 

「本当は、もっといい施設に入れることもできました。でも、お金が不安で…。簡単にいうと、私がケチったのですよね、母のお金を」

 

「最後のほうは、〈美香ちゃん、お家に帰れる?〉しかいわなくなりました。本当にかわいそうでしたが…。私、もっと頑張ればよかったのでしょうか?」

 

終の棲家として、自分の意思で老人ホームを選ぶ高齢者も増えている。しかし、そうではないケースも、もちろんあるだろう。介護する家族にもそれぞれ自分の人生があり、譲歩できる部分、できない部分がある。佐藤さんは後悔に苛まれているが、密かに同じ思いを抱いている人も、多いのではないだろうか。

 

 

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