日本の大卒初任給、「ニューヨークの最低賃金」を下回る…「日本・一人負け」の切実な実態【元IMFエコノミストが解説】

日本の大卒初任給、「ニューヨークの最低賃金」を下回る…「日本・一人負け」の切実な実態【元IMFエコノミストが解説】
※画像はイメージです/PIXTA

G7各国が順調に賃上げを行うなか、日本の賃金は低止まりを続け「一人負け」状態に陥っています。本記事では、元IMF(国際通貨基金)エコノミストで東京都立大学経済経営学部教授の宮本弘曉氏による著書『一人負けニッポンの勝機 世界インフレと日本の未来』(ウェッジ社)から、日本の低迷する賃金の実態について解説します。

大卒初任給は、ニューヨーク市の最低賃金より安い!?

大卒の初任給についても確認しておきましょう。

 

厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、大卒初任給は男女計で22万8500円で、男性が22万9700円、女性が22万7200円となっています。これを単純に12倍して年収に換算すると、男女計で約274万円、夏と冬のボーナス(給料の2か月分)を含めると約320万円となります。

 

日本の大卒初任給を海外と比べると、驚くべき事実が明らかになります。アメリカの人材組織コンサル企業、ウィリス・タワーズワトソンによると、2019年の大卒初任給(平均年額)は、スイスで800万円超、アメリカで632万円、ドイツで534万円でした。

 

これに対して、日本の大卒初任給は経団連の調査によると262万円に過ぎませんでした。一番、高いスイスと比べると、日本の賃金は3分の1以下であり、その差は歴然としています。また、アメリカやドイツと比べても半分以下の水準です。

 

韓国とも比較してみましょう。日本貿易振興機構(JETRO)の調査レポートによると、2019年の大卒初任給は、日本の2万7540ドルに対して、韓国は2万7379ドルとなっており、全体としては両国でほぼ変わらないものの、大企業では韓国が日本より高く、従業員数99人以下の中小企業では日本の方が高いとしています※1

 

ところで、ニューヨーク市の最低賃金は15ドルです。週5日1日8時間で働いたとすると、月に160時間×15ドルで月給は2400ドルになります。1ドル=130円で換算すると、約31万円です。日本人の大卒初任給は月額約23万円なので、ニューヨーク市の最低賃金を下回ることになります。

 

もっとも、ニューヨークと日本では物価が異なるので、生活水準については簡単に比較できませんが、額面上の給料にこれほどの差があるというのは驚きの事実です。

 

※1 日本貿易振興機構(JETRO)地域・分析レポート「韓国の賃金水準、日本2022年9月5日9月5日

 

「初任給を引き上げる」近年の日本企業の動き

そうした中、日本でも初任給を見直す動きが出てきています。新入社員の初任給を引き上げ、若手人材を確保しようとする企業が増えてきています。

 

例えば、三井住友銀行は2023年の新卒初任給を5万円(25%)引き上げました。また、ユニクロを運営するファーストリテイリングは、2023年3月から国内従業員の年収を最大4割引き上げ、新入社員の初任給は月25万5000円から30万円になりました。

 

一般財団法人労務行政研究所の調査によると、東証プライム上場企業の157社のうち、2023年4月に入社した新卒社員の初任給を引き上げた企業は過去10年間で最多の7割を超えています。産業別に見ると、製造業は83.3%の企業が引き上げを行い、非製造業では56.2%となっています。

 

図表4は初任給の引き上げ率(「全学歴引き上げ」した企業の割合)の推移を示したものです。

 

[図表4]初任給の引き上げ率の推移

 

世界金融危機の影響を受けて、初任給を引き上げた企業の割合は2013年度までは3〜4%台と低迷していましたが、2014年度には輸出産業を中心とする企業回復やデフレ脱却に向けた賃上げの政労使合意などを背景に、23.2%に大幅に上昇しました。

 

2015年度にはさらに上昇し、約4割の企業が初任給を引き上げました。その後、引き上げ率は若干、減少しましたが、3割を超えて推移していました。しかし、コロナ禍の影響で、2021年度には17.1%にまで大幅に低下。

 

しかし、2022年年度は一転して40%台へと上昇、さらに2023年度は70%を超えました。

 

 

宮本 弘曉

東京都立大学経済経営学部

教授

 

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宮本 弘曉

ウェッジ社

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