自分が亡くなったとき、経済的に困窮する人はいるか?
医療保険ばかりでなく、死亡保障の保険(生命保険)に関しても、ムダな入り方をしている例はたくさんあります。社会人で保険に入っている人は、たいてい医療保険と死亡保障の保険に入っているので、ここからは死亡保障の入り方を考えていきたいと思います。
最初に整理しておくと、死亡保障の保険で今多くの人が加入しているのは、「定期保険」「定期特約付終身保険」「終身保険」の3種類です。
そのほか、「養老保険」という保障と貯蓄機能を兼ね備えた保険もあるのですが、最近は利回りが悪化し、貯蓄機能が低下しているため、あまり人気がありません。したがって、ここでは除外しておきたいと思います。
定期保険とは、死亡保障がつく期間が60歳、あるいは65歳までなどと決まっている保険です。これに対し、終身保険は死亡保障が一生涯続きます。この2つを組み合わせた定期特約付終身保険は、保障が2階建てになっており、現役時代は手厚い保障が受けられます。定年後は保障が薄くなるものの、保障自体は一生涯続くという設計になっています。
医療保険でも終身タイプと定期タイプがありました。医療保険の場合は終身保険を選ぶ人が多いですが、死亡保障はまた異なります。というのも、定年になって年金生活に入り、子どもも社会人になってしまえば、その人が亡くなっても、経済的に困窮する人はいなくなるからです。つまり、医療保険と違って、加入しておく必然性が途中でなくなるのです。
大前提として、死亡保障を考えるときには、「あなたが死んで、誰が経済的に困るか」を想定しなければなりません。
独身の人の場合、親兄弟を養っている――などの事情がなければ、あなたが死んだときに悲しむ人はたくさんいても、お金の面で困る人はいないでしょう。ということは、独身の人が万一の事態に備えて準備すべきものは、ほとんどありません。強いて挙げるなら葬儀代くらいでしょうか。
ただ、平均的な葬儀代は、葬儀自体の費用や寺院に支払う費用、通夜や飲食の費用を含めて、大体200万~300万円程度といわれます。これくらいであれば、預貯金で備えることもできるでしょうし、もし預貯金がなくても葬儀代そのものを抑えることは十分可能です。
結婚している人でも、共働きで子どもがいなければ、遺された配偶者はそこまでお金に困らないでしょう。配偶者一人なら、働くことでいくらでも生計を支えることは可能だからです。
問題は、子どもがいる場合です。しかも、まだまだ手がかかる小さな子どもがいるときに、親のどちらかが亡くなったら大変です。
小さな子どもがいると、夫婦のうちのどちらか片方(多くの場合は妻)は、育児に割く時間がどうしても増えます。すると、フルタイムで残業もこなしながら働くようなことが難しくなり、共働きでガンガン稼ぐのは困難になります。そうなると、生活費から子どもの教育費まで、すべて夫頼みということになります。そのため、夫に万一のことがあったら、突然収入源がまったくなくなってしまいます。
夫が亡くなったときに、子どもがもう大学生くらいになっていれば、奨学金を頼って進学できるでしょうし、子ども自身にアルバイトなどで稼いでもらうこともできるはずです。そのため、家計に大打撃を被らずに済むかもしれません。しかし、子どもが幼稚園や小学生、妻は専業主婦という状態で、夫が亡くなってしまったら、遺族の家計はたちまち困窮してしまいます。
そう考えると、死亡保障が最も必要なのは、結婚していて小さな子どもがいる世帯ということになります。それ以外の人――独身の人や、子どものいない共働き夫婦(DINKsなどといいます)などは、とりあえず急いで死亡保障の保険を検討する必然性はないでしょう。
終身保険は「若いとき」に入れば掛け金は安いが・・・
実際は、独身や夫婦だけの世帯の人でも、死亡保障をつけている人は多いものです。そのような人に話を聞くと、「保険は若いときに入ったほうが、保険料が安くて有利だから」「(独身の人の場合)いずれ結婚するだろうし、保険料が安い今のうちに入っておいたほうがいいのでは」といった答えがよく返ってきます。
もっともらしい回答ですが、これは必ずしも正解ではありません。たしかに、終身保険の場合は、若いうちに加入したほうが保険料は安くなります。しかし、歳を取ってから入る場合に比べて長期間支払い続けるわけですから、月々の負担が少ないとしても、支払い総額が劇的に変わるわけではありません。
次回ご説明しますが、私は死亡保障は定期保険がベストだと考えています。構造が複雑な定期特約付終身保険もおすすめしません。定期保険ならたいてい掛け捨てなので、独身やDINKsの場合、急いで保険に入っておく必然性はないのです。