(写真はイメージです/PIXTA)

英国では11月1日、金融政策委員会(MPC)が開催され、11月2日に金融政策報告書(MPR)が公表されました。「中期的な均衡失業率」が上昇した一方で、政策金利の維持が決定されました。本稿ではニッセイ基礎研究所の高山武士氏が、今回のMPCとMPRの内容から英国経済の今後の見通しについて解説します。

1.結果の概要:2会合連続で政策金利据え置きを決定

11月1日、英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、2日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。

 

【金融政策決定内容】
・政策金利を5.25%で据え置き(6対3で3名は0.25%ポイント引き上げを支持)

【議事要旨等(趣旨)】
・GDP成長率見通しは、23年0.50%、24年0%、25年0.25%、26年0.75%(下方修正)
・CPI上昇率は、23年4.75%、24年3.25%、25年2%、26年1.5%(10-12月期の前年比、将来について上方修正)
・インフレ見通しに対するリスクは、上方に傾いている
・賃金上昇率の継続的な強さを受け、「中期的な均衡失業率」をやや引き上げた
・政策金利は十分な期間、十分な高さを維持するつもりであり、利下げは時期尚早である

 

2.金融政策の評価:インフレ見通しを上方修正

イングランド銀行は今回のMPCで政策金利の据え置きを決定した。金利据え置きは市場の予想通りの結果だった。

 

声明文にはこれまで同様に「仮により永続的なインフレ圧力があるのであれば、より引き締め的な金融政策が必要となる」との文言が残され、追加利上げの余地がある点については引き続き強調された。

 

加えて今回は「最新見通しは金融政策を長期にわたって制限的にする必要があることを示している」として、追加利上げがなくても高い金利を長期間維持するという期間に関する表現も追加され、ベイリー総裁も記者会見で利下げは時期尚早であると念押ししている。

 

今回は会合に合わせて金融政策報告書(MPR)が公表され、経済見通しが更新されている。8月の見通しと比較すると、成長率は下方修正されインフレ率は上方修正となった※1

 

見通しについて特筆すべきこととして、賃金上昇率が高止まりしていることを受けて「中期的な均衡失業率」の評価をやや引き上げたことが挙げられる。

 

「中期的な均衡失業率」の上昇は、MPCの中でもタカ派の委員が主張していた見解である。供給力が減少しているため、需要が変わらなくても物価が上昇しやすくなっており、したがって金融引き締めを強化して需要を押し下げる必要があることを意味している。

 

今回は、25年末までに2%の物価目標を達成できるとの見通しを示した上で政策金利の維持が決定された。市場でも政策金利はピークに達したと予想されている。

 

しかし、イングランド銀行は見遠しの上方リスクを警戒しており、今後、賃金上昇率やサービスインフレが予想よりも高止まりした際には、追加利上げが実施される可能性が残っていると考えられる。

 


※1 ただし、前提となる政策金利の経路が8月時点より引き下げられているため、単純に比較はできない点には留意する必要がある。一般的には政策金利の引き下げは成長率・インフレ率への押し上げ材料となるため、見通しとしては、成長率は下方修正と言えるが、インフレ率については政策金利経路の引き下げによる上振れ効果も生じていると見られる。

次ページ3.金融政策の方針

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年11月6日に公開したレポートを転載したものです。

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