※画像はイメージです/PIXTA

2022年3月以降、外国為替市場では円安が急速に進みました。これにはどのような背景があるのでしょうか。本記事では、元IMF(国際通貨基金)エコノミストで東京都立大学経済経営学部教授の宮本弘曉氏による著書『一人負けニッポンの勝機 世界インフレと日本の未来』(ウェッジ社)から、近年の日本銀行の金融政策と日本経済の状況について解説します。

異次元の金融緩和

こうした状況に対し、日本経済をデフレから脱却させるべく、日本銀行は先述したように異次元の金融緩和に踏み切りました。

 

2013年4月:国債などを大量購入する政策へ

政府と日本銀行が異例の共同声明を発表し、2013年4月に日本銀行は前年比で消費者物価上昇率を2%程度という安定的インフレを、2年以内にできるだけ早く実現することを目指しました。

 

そのため、政策目標をそれまでの金利(無担保コールレート)から供給するマネーの量(マネタリーベース)へと変更し、国債などを大量に購入し、お金を市中に供給して経済を活性化する試みが始まりました。

 

緩和策の導入後、金融市場で円安と株高が進んだものの、物価はなかなか2%の目標には達しませんでした。

 

2016年1月:民間銀行が日銀に預けたお金にマイナス金利を適用する政策へ

そこで、日本銀行は2016年1月に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入します。これは、民間銀行が日本銀行に預けるお金の一部にマイナス0.1%の金利を適用するものです。

 

民間銀行は多くのお金を日本銀行に預けておくと利子を取られるため、民間銀行が世の中に出回るお金の量を増やすことで、家計や企業がお金を使いやすい環境を整えることを狙ったものです。

 

しかし、マイナス金利政策によって金利全体がさらに低くなり、銀行が貸し出しで利ざやを稼ぎづらくなるなどの副作用が問題となりました。

 

2016年9月:イールドカーブ・コントロールへ

そのため、2016年9月に日本銀行は「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」という政策を導入します。

 

通常、債券の利回りは償還期間が短いと低く、長くなると高くなります。期間に応じた金利の折れ線グラフを描いた曲線(イールドカーブ)を操作するのでイールドカーブ・コントロールと呼ばれます。

 

この政策では、日本銀行が短期政策金利と長期金利の誘導目標を定め、それを実現するように国債の買い入れを行います。

 

具体的には、短期金利に関しては、金融機関が日本銀行にお金を預ける日銀当座預金の一部にマイナス0.1%の金利が設定されています。

 

また、長期金利の代表である10年物国債の利回りは、ゼロ%程度に誘導されており、2022年12月には許容される利回りがプラスマイナス0.25%程度からプラスマイナス0.5%程度に拡大されました。市場関係者はこれを事実上の利上げだととらえました。

 

さらに、日本銀行は2023年7月に長期金利操作の修正を決めました。長期金利の上限は0.5%を「めど」としたうえで、市場動向に応じてこの水準を一定程度超えることを容認しました。

 

このように日本銀行は2013年から10年間、大規模な金融緩和を続けてきました。2022年までにインフレ率は日本銀行が目標とする2%に達することはなかったものの、2013年からコロナ禍が始まる前の2019年までは、インフレ率はプラスで推移しており、デフレ脱却には成功したと言えます。

 

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一人負けニッポンの勝機

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宮本 弘曉

ウェッジ社

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