国債利回りと株式の益回りが「同水準」に戻りつつある理由
では、なぜ、いまふたたび「S&P500の益回り」と「米国10年国債利回り」は同水準に戻ろうとしているのでしょうか。筆者は、2つの事象が重なっていると考えています。すなわち、
①国債市場の投資家は、米国債に以前よりも高いリスクを見積もっている(=高い国債利回り)
②株式市場の投資家は、米国大型成長株式に対する強気見通しを変えていない(=益回りが低いのは一部の株式であって、すべてではない)
となります。
“国債市場の投資家”と“大型成長株式市場の投資家”はそれぞれなにを見ているのか
上記①②をやや大げさに言い換えれば、
①国債市場の投資家は、インフレと戦争のリスクを見ている(→hotwar,coldwar,civilwar;物的戦争、世界の分断、国内の分断)
②米国大型成長株式の投資家は、ディスインフレと平和の継続を見ている
といえるかもしれません。
そして、もっと大げさに言い換えれば、
①国債市場の投資家は、保守・(哲学や宗教、独自の文化・慣習などがもたらした)伝統的価値観・国民・民族・共同体・国家を重視するひとたちが復活する可能性を見ていて、グローバル化・リベラル・伝統の否定・多様性(≒「違い」の否定)・気候変動やSDGsへの関心などを挙げるひとたちと対立する
②米国大型成長株式の投資家は、グローバル化・リベラル・伝統の否定・多様性(≒「違い」の否定)・気候変動やSDGsへの関心など、世界のひとびとをひとつにまとめるかのような運動を推進するひとたちがさらに力を持つと考えている(→この運動を強力に支えるのが、デジタル化や人工知能A.I.であり、米国大型成長株式に分類される巨大企業の一部である)
といえるかもしれません。
そもそも国債は、そのコスト(=税かインフレ)の負担者が国民ですから、ドメスティック(国内的)な存在です。一方、米国大型成長株式やそれらの企業のCEO・幹部たちに代表される超富裕層は、租税回避地を使ったり、法人税や所得税の負担を抑える、グローバル(超国家的)な存在です。
筆者はいま、「リベラリズム」と「米国の一国覇権主義」という2つのグローバル化が試されていると考えています。
なお、「米国債はドメスティックな存在」と書きましたが、米国債は、その少なくない部分が海外の投資家によってファンディングされています。
しかし、【次の図】に示すとおり、海外部門の保有シェアは低下傾向で、逆に米連邦準備制度理事会(FRB)を含む国内部門の保有シェアは上昇しています。
これは、米国がかつてのように、外国からの借り入れ(≒準備通貨・ドルの供給)に依存して消費を拡大させることが難しくなっている可能性を示唆します。
重見 吉徳
フィデリティ・インスティテュート
首席研究員/マクロストラテジスト
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