私たちには、物を捨てる自由が確保されています。しかしその一方で、なかには捨ててはいけないもの、捨てられたり、放置すると人に迷惑をかけるものもあります。本記事では、中央大学法学部教授である遠藤研一郎氏の著書『はじめまして、法学 第2版 身近なのに知らなすぎる「これって法的にどうなの?」』(株式会社ウェッジ)より、「所有権」の法的知識について解説します。

家・土地が余る時代へ

所有物を放置する別の例として、少子高齢化・過疎化を背景とした、「空地・空き家問題」があります。最近、とくに大きな問題となっています。すなわち、使用・管理がなされずに放置されている状態が長期間継続している土地や建物が増えているのです

 

2030年を過ぎる頃には、全住宅の3分の1程度が空き家になるという民間予想すらあるようです。日本の社会・経済が全体的に、「拡大の時代」から「維持・縮小の時代」へ突入する中、足りない物を取り合っていた状態から、余った物を放置する状態へ移行しているように感じます。

 

ところで、そもそも所有権を有しているのだとすれば、所有者には、それを放置する自由もあるのではないでしょうか? 「使おうが使わなかろうが、勝手でしょ!」とは言えないのでしょうか? 

 

たしかに、所有者には、「自由に使用する権利」が与えられているのですから、「使用しない自由」も与えられているはずです。買ったネクタイが気に入らないので、ずっと押し入れにしまったまま放置しても、誰からも文句を言われることはありません。

 

しかし、放置の対象が土地や建物となると、少し事情が異なってきます。空地や空き家がそのまま放置されると、治安が悪化します。心霊スポットになったり、犯罪の現場として使われたり、火災の原因になったりします。手入れがなされず草が生え放題になった庭から、大量の虫が発生するかもしれません。建物の老朽化や土地の未管理に起因する事故発生の恐れなどもあります。

 

写真提供:ピクスタ Rise / PIXTA
放置された廃屋 写真提供:ピクスタ Rise / PIXTA

 

しかも、不動産は、動かすことができないのです。ですから、たとえそれが自分の所有物であって、自由に使用する(使用しない)ことができるとしても、それによって周囲に少なくない影響を与えているかもしれません。

 

周囲の住民が住みにくく感じたり、そのために引っ越しをする住民が増えて地域が寂れたり、地価が下がったりするかもしれません。不動産は、周辺の住民全員でコミュニティーを形成しているという特性を持っています。一種の公益性を有している財産ということもできます。

 

※ 総務省の「平成30年度住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家は848万9千戸、空き家率は13・6%。約7件に1件は空き家という計算に。

 

 

遠藤 研一郎

中央大学法学部

教授

 

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