恐ろしい…勝手に境界線を越えてくる隣人、放っておくと自分の土地が「奪われる」ワケ【中央大学法学部教授が解説】

恐ろしい…勝手に境界線を越えてくる隣人、放っておくと自分の土地が「奪われる」ワケ【中央大学法学部教授が解説】

「勝手にお隣さんが自分の土地に入ってくる」「隣の家の木が境界を越えている」などの隣人トラブルを抱えている人はいませんか? 実は、そうした事態を長年放置していると、自分の土地を隣人に奪われてしまう可能性もあると、中央大学法学部教授である遠藤研一郎氏はいいます。いったいなぜでしょうか。本記事では、同氏の著書『はじめまして、法学 第2版 身近なのに知らなすぎる「これって法的にどうなの?」』(株式会社ウェッジ)より、「所有権」の法的知識について解説します。

「物を拾う」ということ

所有権の取得原因の中心となるのは「売買契約」と「相続」です。しかし、所有権の取得原因はそれだけではありません。時には、物を拾うことによって、所有権を取得するということもあります。具体的にお話ししましょう。民法に、こんな規定があります。

 

民法239条1項

所有者のない動産※1は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。

 

これを無主物先占といいます。誰の所有物でもない物は、拾って、所有の意思をもって物を所持し始めた人に所有権が帰属するというルールです(ただし、動産に限定されることには注意してください。無主の不動産は、国庫に帰属します)。たとえば、散歩中に見つけた昆虫を採集した場合、一般的には、採集した人がその所有権を取得できるのです。

 

売買契約や相続は、前に所有権を持っていた人から権利が承継される形で、新たに所有権を取得する人が現れるという類型ですが、無主物先占のような取得は、みずからが「原始的」に所有権を取得する類型といえます。これを原始取得といいます。

 

「落とし物」を拾ったら…

ちなみに、落とし物は無主物ではありません。落とし物は遺失物です。ですから、落とし物を拾っても、直ちに所有権を取得するのではなく、遺失物法に従った手続が必要です(民法240条※2)。

 

1980年4月25日に発生した、1億円拾得事件をご存じですか? あるトラックの運転手が、道路脇に風呂敷に包まれていた1億円を拾って警察に届け出たのですが、6ヵ月間(注:現行法では3ヵ月間)落とし主が現れなかったため、遺失物法に基づき、その所有権を取得したという事件です。

 

※1 動産は、「不動産以外の物」と定義される(民法86条2項)。そして、不動産とは、「土地及びその定着物」のことを指す(同法1項)。すなわち、土地とその土地に定着している物(建物も含む)以外はすべて動産となる。机、パソコン、宝石、本などさまざまな物が動産に属する。

 

※2 【民法240条】遺失物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後3箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。(後略)

拾っただけで所有権を取得できるワケ

さて、このような説明を聞いて、「あれ? なんで、物を拾っただけで、所有権を取得できるの?」と、少し納得いかない読者もいるかもしれません。財産は、自分の才能と努力で手に入れるもの。働いた対価として手に入れるもの。そのように考える人からすると、物を拾うだけで、それを自分の財産にできるというのは、少し虫がいい話のような気がしませんか?

 

ここには、一定の価値観が横たわっています。すなわち、法が「占有(=物を所持すること)」に、一定の価値を見いだしているのです。誰の物でもなかったり、また、誰の物なのか分からないまま放っておかれたりすると、限りある資源を社会的に有効活用することができません。

 

この点、占有者は、興味を示してその物にアプローチしているのですから、それを効率的に利用する可能性が高いように考えられます。ですから、占有者が、それを自分の物として使いたいなぁと思っているのだとすれば、その者に所有権を与えても、それほど悪いルールとはいえません。

 

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はじめまして、法学

はじめまして、法学

遠藤 研一郎

株式会社ウェッジ

「法的なものの考え方」を育てる法学入門、増補・改訂版! いざ!というときにもう困らない。ずっと関わる法学を、もっと身近に。

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