「ウチには大した財産はない」――そういって相続対策は必要ないと考えている人は少なくありません。しかし、こうした場合でも相続には大きなリスクが存在します。本記事では、中央大学法学部教授である遠藤研一郎氏の著書『はじめまして、法学 第2版 身近なのに知らなすぎる「これって法的にどうなの?」』(株式会社ウェッジ)より、相続の基本についてわかりやすく解説します。

死亡と相続(財産の承継)

所有権が承継される場面として、相続に触れておきましょう。相続とは、死亡した人(被相続人)の所有していた財産を、相続人(相続する人)がすべてひっくるめて承継することです。人生の一部に「死」がある以上、相続は、誰でも経験するものです。

 

そもそも、明治時代は、家制度を基本とし、家督相続(戸主の有した権利・義務の承継)があったため、相続も「家族」の法としての色彩が強かったのです。しかし、家制度・家督相続が廃止となって、相続が個人財産の承継(遺産相続)にすぎなくなった現在においては、相続制度は、誰もが直面する可能性がある所有権取得の原因の1つとして位置づけられます。

 

次男や三男であっても、女性であっても、結婚していてもいなくても、年配者であっても生まれたての赤ちゃんであっても、相続人になる可能性があります。

 

ところで、なぜ相続というものがなされるのでしょうか。一般的には、血縁関係があること、相続人と被相続人が縦の共同関係を形成していること、家族の生活保障、築き上げてきた財産を清算する必要があること、被相続人の死亡という偶然の事情によって社会生産関係に直接的な影響を与えないようにする必要があること、などが挙げられています。相続についても、民法に基本的な規定があります。

ロクな財産がなくても相続は発生する

相続は、戦前には、家督相続というものが認められていて、戸主が隠居をすれば、生前であっても家督相続が開始されることとなっていましたが、家督相続を廃止した現在では、人の死亡が相続開始原因となっています。

 

そして、相続は、被相続人に属していた一切の権利義務を包括的に承継すること(包括承継)を原則としています。

 

相続が開始すると、被相続人が所有していた不動産や動産、地上権・質権・抵当権などの物権、預金債権や売掛代金債権などの債権、著作権や特許権のような知的財産権などさまざまな積極財産(正の財産)や、貸金債務や損害賠償債務などの消極財産(負の財産)、さらには、賃借人の地位などの財産上の法律関係・法的地位も含めて、包括的に承継されるのです。

 

「包括的に承継される」ということは、特定の財産だけ相続したり特定の財産を相続から排除したりすることは原則としてできないことを意味します。

 

民法896条本文

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。(後略)

 

ですから、相続は、お金持ちの人のためだけの制度ではないのです。「親父は、ロクな財産を遺していないから、ウチは相続、関係ない」なんて考えないでくださいね。放っておけば、しっかりと負の財産を相続することになります。

 

ただし、相続は相続人の意思に反してまでこれを強制させられるべきではありません。遺族に相続を強制することは、相続人に酷な結果をもたらすこともあるからです。このような場合にはむしろ、遺族に「相続人にならない自由」を認めなければなりません。


そこで法は、相続の効果は被相続人の死亡によって一応発生し、被相続人の財産は包括的に相続人に承継されるという考え方を採用しながら、他方で、相続人は、一定期間内に相続の効果を受けるかどうかを自分の意思で決定することができるものとしています

 

※ 具体的には、そもそも相続人にならないという選択をする「相続放棄」に加え、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務などを弁済することを留保して相続を承認する「限定承認」がある。

 

 

遠藤 研一郎

中央大学法学部

教授

 

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