あこがれのタワマン購入が引き裂いた夫婦の絆
翌週、2人の自宅で正式な訪問査定を行います。購入してから間もないため、残債はまだ1億1,300万円ほど。築浅でピカピカの物件とはいえ、残債に相当する金額で売却できるかはかなり微妙な状況でした。
売却した場合の流れや段取りを話ししていたところ、いまも在宅療養中だという正信さんは「本心では、売りたくないんだけど……」と漏らします。一方の里美さんは「支払原資がない以上、売却するしかない」と冷静に主張しました。
この状況では、里見さんの主張は当然といえるでしょう。正信さんは後ろ髪を引かれながらも売却を受け入れることになりました。幸いにして都心部の不動産市況が伸びていたため思いがけず高額での購入者がみつかり、ローンの残債・諸費用等を支払っても少々のプラスになるほどの金額で無事売却が決まりました。引渡しは3ヵ月後の予定です。
売却後の住み替え先の件で再訪したとき、待ち受けていたのは予想通りの展開でした。里美さんから正信さんに離婚を切り出し、2人は別居することになったのだといいます。
「これ以上の苦労は背負いたくない」という里美さんの冷静な判断からでした。マンションの売却益から、これまで里美さんが返済を肩代わりした金額も返して欲しいとのリクエストもしているようです。
里見さんは「背伸びしすぎた住宅購入」が原因で2人の絆に亀裂が入り、溝が深まっていったのだといいますが、果たしてそうでしょうか?
ペアローン最大のリスクは「お互い働けなくなる」可能性
誰もが「自分の選択が間違っていた」とは認めたくないものです。ただ、購入前に「お互い働けなくなるかもしれない」というペアローンの最大のリスクを認識できていなかったことが、2人の大きな間違いだったと筆者は考えます。
ぺアローンで購入しようとする夫婦に対し、「病気などで働けなった場合のリスクは……」と説明する不動産営業マンがいるとは思えません。知り合いの同業者から聞いたところによると、「都心部のタワマンは億が当たり前。基本はペアローンを提案しているよ」とのことでした。
住宅ローン金利について、変動金利は依然低いままです。ネットバンクなどでは0.3%台の商品も多くみられます。大手勤務や公務員の場合は借入可能額も多く、いいことづくめにみえるかもしれません。
ただ、そこには上にみたようなリスクがあることを、忘れてはならないのです。
2人に住み替え先の賃貸住宅を紹介した後、「財産分与で揉めている」と話す里美さんには、弁護士も紹介することになりました。不動産業者は、ただ物件を紹介するだけでなく、リスクや将来を考慮した助言を心がけていく必要があると痛感した一件でした。
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