贈与の基本
Bさんは筆者に経緯を話してくれました。そして「私が忘れずに管理していれば……本当に後悔しています。みなさん、孫に資産を譲りたいときはどうされているんですか?」と尋ねられました。
そこで筆者は、FPとして祖父母が孫に贈与する時の一般的なお話をいたしました。
そもそも贈与とは、贈与者が「あげます」、受贈者が「もらいます」と意思表示して合意し、贈与者が自分の財産を譲る契約です。
従って、Aさんのあげる意思があっても、孫のもらう意思は不明で、贈与が成立していないとも言えます。また未成年者への贈与の場合、親などの親権者が同意すれば贈与契約は成立するとも言われています。
どちらにしても、このような贈与が必要なときは、税理士や弁護士といった専門家にまず相談するべきです。
それに祖父母や親から子や孫に生前贈与をする場合は、贈与側は贈与しても生涯自身の生活が破産することはないか、まずシミュレーションをして確認することが大切です。
また受贈者側も、もらったものは大方役に立つことでしょう。しかし、一度の受取額によっては贈与税が課税されますので、慎重な対応が大切です。
贈与税の課税方法
贈与税の課税には、「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。
通常、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に贈与税の申告が必要です。
暦年課税とは
暦年課税とは、その年の1月1日から12月31日の1年間(暦年)に贈与を受けた合計額から基礎控除額110万円を差し引いた金額に課税されます。
従って、毎年110万円以下なら贈与税は課税されませんし贈与税の申告も不要です。Aさんはこの暦年課税を利用したつもりだったのでしょう。
相続時精算課税とは
原則として60歳以上の祖父母または親から、18歳以上の子または孫に対し、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた合計額から2,500万円の特別控除額を控除した残額に対して、一律20%の贈与税が課税される制度です。
一度この相続時精算課税を選択すると、その後、同じ贈与者からの贈与は「暦年課税」へ変更することはできません。
Aさんは孫が20歳になったとき、110万円の20年分2,200万円を、相続時精算課税を使って贈与しても良かったかもしれません。ただ、祖父母が亡くなって遺言などで孫へ相続する場合、原則孫の相続税額に2割が加算されます。
贈与が非課税となる特例
また、祖父母から孫への贈与が一定額非課税となる「教育資金一括贈与の贈与税非課税の特例」や「結婚・子育て資金の一括贈与の特例」といった特例制度の利用を検討してもいいでしょう。
なお、祖父母が孫にこれら特例を使って一括して贈与することなく、必要な都度に生活費や教育費などを渡すことは、扶養義務の範囲であり贈与税は課税されませんが、孫がそのお金を貯蓄や投資に使ったら贈与税の課税対象になります。
筆者がここまで話をすると、Bさんは「そういうことだったんですね」と納得したようで、落ち着きを取り戻しました。
帰り際、Bさんは「こんなことなら、もっと夫と旅行やおいしいものを食べに行ってもよかった」と寂しそうにつぶやきました。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員
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