夫が亡くなってから2年後の秋…相続税調査が入ることに
いまから約17年前、町の人気レストランを営む当時70歳の夫Aさん、67歳の妻Bさん夫婦の40歳のひとり息子Cさん夫婦に子どもが生まれました。A夫婦にとっては待望の初孫の誕生です。
Aさんが30歳の時にはじめたレストランは、次第に通販なども手掛けて事業を拡大していき、Aさんが45歳の時に法人化。75歳の引退まで時間があるときは調理場に立ち、2代目の長男や調理人に、店の味を伝えながら調理の腕を磨く手助けをしていたそうです。
Aさんはリタイア後の10年間は夫婦で悠々自適の老後を過ごし、2年前に85歳で他界しました。
Bさん母子は、Aさんの遺志と顧問税理士がひとり息子Cさんの2次相続も考慮した遺産分割案通り、Bさんは「配偶者の相続税の控除特例」※が適用され、息子のCさんだけが相続税を納付して、適正に相続の申告も相続税も終えたと思っていました。
※被相続人(Aさん)の配偶者(Bさん)が遺産分割により実際に取得した遺産額が、(1)1億6千万円(2)配偶者の法定相続分相当額、の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税は課税されない制度。
ところが、申告から約2年が経ちAさんの店の名物料理のひとつ「栗おこわ」を提供する季節になったころ、84歳になったBさんのもとに「税務署の相続税調査がある」と、顧問税理士から連絡があったのでした。
孫名義で毎年110万円貯めていた預金が「課税対象」に
税務調査当日、特に指摘されることもなく調査は終わるかと思った時に、調査官から「銀行や郵便局の通帳はこれだけですか?」と聞かれ、Cさんは「はい」と即答しました。
しかしBさんは、「ほかに……ひょっとすると?」といいながら、リビングの古びたキャビネットのなかの今は使っていない、手提げ金庫のうろ覚えだったダイヤル式のカギをなんとか開けました。
金庫のなかには、一通の通帳と印鑑、キャッシュカードなどが入っていました。
実は、初孫が生まれた時3代目の誕生を喜び、顧問弁護士やCさんに知らせることなく夫婦の秘密として孫名義の銀行通帳を作り、孫の誕生日に毎年110万円ずつ※入金して、孫の20歳の誕生日にその通帳を渡すことを楽しみにしていたのでした。
※毎年110万円までの贈与は基礎控除される。詳細は後述する「暦年課税」を参照。
BさんはAさんが75歳のリタイア後「110万円預金するお金はないな!」と言っていたので、預金はやめたと思いこの通帳のことも忘れていました。しかし通帳には、Aさんが亡くなる2年前までの15年間、毎年110万円ずつ入金されており、残高が1,650万円と記帳されていました。
Cさんましてや孫は、そんな通帳があることすら知りません。
調査官からは「この預金はAさんの財産で孫の財産ではないので、Aさんの遺産として相続税の課税対象です。しかし申告がされてないため、追徴課税の対象になります」と言われたそうです。
Bさんは「そんな、孫にあげるつもりで貯めていたお金よ? これが追徴課税なんておかしいわ!」と反発するも、調査官は聞く耳を持ちません。
顧問税理士は税務署の調査官が帰ったあと、指摘された預金はいわゆる「名義預金」だといい、国税庁のサイト「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」には申告の記入例が記載されていると話しました。
Bさんは今一つ釈然としないところもあり、誰かに話したくて昔からの知り合いだった筆者のところにみえたのでした。
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