JRA売得金、12年連続「前年比増加」に向けて前進
~JRAの売得金、10月22日までの年初からの累計前年比が+0.1%とようやく増加に。
10月22日までの年初からのJRA(日本中央競馬会)の売得金累計前年比が+0.1%とようやく増加に転じました。なお、売得金とは、勝馬投票券を発売した金額である発売金から、出走取り消し・競争除外分の返還金を差し引いた金額です。
JRAの売得金は昨年(22年)では前年比+5.8%と11年連続で前年比増加になりましたが、今年(23年)はここまでは、もたついていました。しかし、やっと12年連続増加に向けて前進しました。緩やかながら景気拡張局面が続いていることと整合的です。
今年のJRA売得金の年初からの累計前年比の動きを振り返ってみましょう。1月9日時点で▲1.5%とマイナススタートでした。2月後半から3月初めでは累計前年比は一時ややプラスに戻ったものの、昨年3月では、21日までで万延防止等重点措置が終了していた反動が出たためか、3月26日までの週までの累計前年比は▲2.7%の減少でした。
4月16日までの週の累計前年比は▲2.8%の減少でしたが、そこからは上半期は改善傾向で推移しました。5月21日までの週の累計前年比は▲2%台から抜け出し、▲1.8%の減少になりました。6月11日までの週の累計前年比で▲1%台から抜け出し、▲0.8%の減少になりました。そして、7月23日までの週の累計前年比と7月30日までの週の累計前年比は0.0%で、一旦、減少傾向を脱したのでした。
しかし、その後、8月・9月・10月の第2週までの各週は▲0.1%~▲0.3%の微減で推移しました。新型コロナウイルスの分類が5月8日から5類へと引き下げられ、イベントでこれまでの人数の制約などがなくなったことで、JRA売得金に回っていた資金が他のスポーツ観戦やコンサートなどに移ったこともあったのではないかと思われます。10月15日までの週になって年初からの累計前年比は0.0%と再びマイナス圏を脱し、10月22日までの週でプラスになりました。
6月を機にGⅠ売得金増加、イクイノックス人気で増加率+22.9%も
~23年GIレースの売得金は安田記念以降、菊花賞まで5レース連続で前年比増加
今年(23年)のGIレースの売得金の動向をみると、2月から5月の売得金・前年比は、プラスが2レースだけで、マイナスが8レースと、減少傾向でした。しかし、6月になると様相が変わりました。6月4日の安田記念の売得金前年比は+0.7%、6月25日の宝塚記念はキタサンブラック産駒として初のGI制覇を成し遂げた人気馬であるイクイノックス人気もあって、売得金前年比は+22.9%の高い増加率になりました。このレースでイクイノックスは、史上16頭目の有馬記念と宝塚記念の秋春グランプリ制覇を成し遂げました。
秋になってもGIレースの売得金・前年比は、10月1日のスプリンターズステークスが+2.8%、10月15日の秋華賞は+16.3%、10月22日の菊花賞は+6.1%と売得金・前年比プラス基調が続いています。
「景気」と「競馬の売上高」の関係
~JRA売得金・前年比と、名目GDP・前年比には強い相関がある
景気が良く収入が伸び、懐具合が良い時は競馬の売上高も伸びるようです。平成・令和の34年間(平成元年・1989年~令和4年・2022年)での名目GDP前年比と売得金前年比の相関係数は0.74です。コロナの時期を除く1989~2019年では0.80に強まります。
バブル期の89~91年の名目GDP成長率は+6~7%台の高成長で、同期間の売得金の前年比は二ケタのプラスでした。92年以降は名目GDPの伸びが鈍化し、97年には+1.5%となりました。同年にはJRA売得金の前年比も+0.4%まで低下しました。
その後、名目GDPは金融危機の98年以降03年までの6年間、00年を除きマイナスとなりました。04年から07年まではわずかなプラスに戻りました。しかし、リーマンショックで08年と09年が、東日本大震災で11年がいずれもマイナス成長になりました。売得金の前年比は、この期間を通してすべてマイナスです。続く12年から19年までは、名目GDP、売得金ともに前年比プラスでした。
名目GDPが前年比マイナスになった年は9回ありますが、1回を除き、残り8回は売得金・前年比もマイナスになっています。唯一の例外は、コロナ禍では名目GDPはマイナス成長になったものの、ネットで勝馬投票券を購入する人の増加で、売得金・年初からの累計前年比が8月にプラスに転じた20年です。
新型コロナが猛威を振るった2020年では名目GDPは前年比▲3.3%で、売得金は最終的に前年比+3.5%になりましたが、8月初めまではマイナスでした。20年の売得金についてその変動を詳しく振り返ってみます。年初からの累計での前年比は2月9日時点で+2.3%の増加でしたが、コロナ感染が広がるにつれ悪化し2月23日時点で+0.4%に鈍化しました。初の無観客競馬となった2月29日、3月1日の勝馬投票券の発売は電話・ネット受付のみとなり、3月1日時点で前年比▲1.4%と減少に転じ、5月3日時点の同▲6.2%まで悪化が続きました。
しかし、そこからネット発売を中心に盛り返しました。当時コロナ禍で開催中止となったスポーツが多く、無観客でも開催を継続していた競馬がスポーツ新聞の紙面に登場する機会が多かったこともあり、ネットで勝馬投票券を購入する人が増えたようです。結果、8月9日時点で同+0.9%と増加に転じました。最終的に、20年の入場者数の前年比は▲84.1%の大幅減少でしたが、売得金・前年比は+3.5%の増加になりました。
21年の入場者数の前年比は▲27.1%の減少でしたが、売得金・前年比は+3.6%の増加になりました。22年の入場者数の前年比は行動制限が緩和される中、+286.2%の増加に転じ、売得金・前年比は+5.3%の増加でした。
※本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。
宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)
三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。 さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。 23年4月からフリー。景気探検家として活動。 現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。