「物価高」が景気の回復傾向に一服感をもたらす
9月の『景気ウォッチャー調査』では、現状判断DI(季節調整値)は49.9と前月比で3.7ポイント低下しました。2ヵ月連続で前月から低下し、景気判断の分岐点50を8ヵ月ぶりに下回りました。円安などによる物価高懸念が、回復傾向に一服感をもたらしたようです。また、9月の先行き判断DI(季節調整値)は、前月差1.9ポイント低下の49.5となりました。
現状判断DI、先行き判断DIともに内訳をみると、家計動向関連DI、企業動向関連DI、雇用関連DIとも低下しました。なお、原数値でみると、現状判断DIは前月差2.4ポイント低下の50.4となり、先行き判断DIは前月差0.3ポイント低下の49.7となりました。
内閣府は、『景気ウォッチャー調査』の現状判断を5月から8月までは「緩やかに回復している」にしてきましたが、9月には「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる」に下方修正しました。判断を引き下げるのは22年7月以来14ヵ月ぶりです。但し、先行きの判断は、8月と同じ「先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている。」に据え置きとなりました。
なかでも「価格or物価」関連判断DIが景況感の悪材料に
9月の『景気ウォッチャー調査』で、景況感の足を引っ張った悪材料として目を引くのは「価格or物価」関連の判断です。現状判断で221人がコメントしDIを作ると45.1と景気判断の分岐点50を下回る水準です。先行き判断で「価格or物価」関連のコメントは355人で、関連DIは41.9です。9月の『景気ウォッチャー調査』で、「価格or物価」関連は、最近月と同じく、多くのウォッチャーが景況感にマイナスの影響を与える項目と見ているようです。
「新型コロナウイルス」の景況感への影響力は縮小
9月の『景気ウォッチャー調査』で、「新型コロナウイルス」関連判断は、現状判断で122人がコメントしDIを作ると56.5と景気判断の分岐点50を上回る水準です。先行き判断で「新型コロナウイルス」関連のコメントは108人で、関連DIは56.0です。
コロナ禍が始まったばかりの2020年2月・3月には先行き判断で1,000名を超えるウォッチャーがコメントし、DIが50を大きく下回っていた時とは様変わりです。段々と「新型コロナウイルス」は景況感に影響を与える材料ではなくなってきている感じがします。
景況感を支えた好材料、「インバウンドor外国人」関連判断DI
9月の『景気ウォッチャー調査』で、プラス材料として景況感を支えた好材料として目を引くのは「インバウンドor外国人」関連の判断である。現状判断で78人がコメントしDIを作ると63.8と景気判断の分岐点50を上回る水準です。22年9月以降13ヵ月連続、60台or70台の高水準で推移しています。
一方、先行き判断で「インバウンドor外国人」関連のコメントは87人で、関連DIは59.5です。こちらは60台・70台以外のDIに22年4月以来17ヵ月ぶりになりました。変化の兆しかどうか、今後を注視したいところです。
「中国」関連先行き判断DI、足元は50超ながらも鈍化傾向
「処理水」関連現状判断DIは、8月では現状判断DIは41.7(コメント数3人)、先行き判断DIは39.7(コメント数29人)でしたが、9月では現状判断DIは45.8(コメント数6人)と2ヵ月連続分岐点の50割れになりました。但し、先行き判断DIは59.4(コメント数8人)で50超になりました。「処理水の海洋放出以降も訪日客数に影響がないように思えるため、今後もインバウンドに期待している(東京都:家電量販店〔店長〕)」というコメントが出てきました。
「中国」関連判断DIが、9月の現状判断DIが48.4(コメント数16人)と8月の60.4(コメント数12人)から一転50割れになりました。「処理水」の影響などが反映されたと思われます。また、9月の先行き判断DIは54.1(コメント数43人)と8月の56.4(コメント数78人)から鈍化しました。
景況感の足を引っ張らなかった「気温」「台風」などの天候要因
天候は今年、景況感に味方しました。「気温」関連判断は、現状判断で28人がコメントしDIを作ると52.7です。先行き判断で「気温」関連のコメントは23人で、関連DIは55.4です。どちらも景気判断の分岐点50を若干上回りました。また、今年は台風の悪影響は小さく、景気にとってはプラスに働いたと言えます。「台風」関連判断は、現状判断で13人がコメントしDIを作ると64.5と景気判断の分岐点50を上回る水準です。先行き判断で「台風」関連のコメントは2人で、関連DIは62.5です。
近畿では「在阪球団 優勝」のプラス効果が出る
近畿の現状判断で「在阪球団 優勝」をコメントしたウォッチャーは14人いました。「在阪球団 優勝」関連現状判断DIは64.3でした。「今月はプロ野球の在阪2球団が優勝し、関連セールの効果で来客数が増え、売上の拡大につながっている。また、訪日外国人の増加傾向にも変化がなく、好調に推移している。(近畿:百貨店〔サービス担当〕)」というコメントがありました。
全国の現状判断DI原数値は50.4で近畿はそれを上回る51.7でしたが、「在阪球団 優勝」は、9月の近畿の現状判断DIを0.8ポイント程度押し上げたと思われます。先行き判断で「在阪球団 優勝」に触れた人はゼロでしたが、「日本シリーズ」関連先行き判断DIは75.0(コメント数2人)でした。「中国からの客が更に増えると予想されるなか、在阪球団の日本シリーズ進出の可能性も高いことから、更なる来客数の増加が見込まれる。(以下省略)(近畿:百貨店〔服飾品担当〕)」というコメントがありました。
なお、過去50年の日銀短観・大企業・全産業・業況判断DIの変化幅(12月調査の前年差)をみると、過去50年の平均は▲0.2ポイントですが、阪神がセリーグで優勝した年は+1.7ポイント改善しています。22年12月の大企業・全産業・業況判断DIは+13で、23年9月は+17、12月見通しは+16です。見通し通りだと+3ポイントの改善が見込まれます。
※本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。
宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)
三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。 さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。 23年4月からフリー。景気探検家として活動。 現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。