〈子のない夫婦の相続問題〉夫の死で初めて知った、異母きょうだいの存在…「遺産を分けるなんて、なにかの間違いでは?」【税理士が解説】

〈子のない夫婦の相続問題〉夫の死で初めて知った、異母きょうだいの存在…「遺産を分けるなんて、なにかの間違いでは?」【税理士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

一見シンプルに思える、子のいない夫婦の相続。しかし実際には、故人の親族にも相続権が生じることから相続争いになりやすく、十分な注意が必要です。具体的な事例から、実情を見ていきましょう。FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

亡き夫から「僕はひとりっ子」と聞いていたのに…

少子高齢化・晩婚化が進んでいる日本では、お子さんを持たないという選択をするご夫婦も珍しくありません。

 

しかし、お子さんのないご夫婦は、お互いが元気なうちに「相続」についてしっかり話し合っておくことが重要です。なぜなら、配偶者亡きあと、配偶者の親もしくはきょうだいと、亡き配偶者の財産を巡り、遺産分割の話し合いを持つ可能性が高いからです。

 

ここでは、ある女性の相談事例をご紹介します。

 

筆者の元に相談に見えたのは、65歳の専業主婦の島田さん(仮名)です。数カ月前に75歳のご主人が急死しました。お2人が結婚したのは、島田さんが40歳、ご主人が50歳のときで、晩婚だったことからお子さんは希望せず、これまでふたりで楽しく過ごしていたといいます。

 

「主人は10歳も年上ですから、先立たれることは覚悟していました。しかし、いざ相続の手続きをしようと思ったら、想像もしていなかった問題が判明したんです」

 

ご主人を亡くした島田さんは、涙にくれながらも、預貯金3,000万円と自宅、遺族厚生年金を受け取れば、ひとりでもなんとか暮らしていけるだろうと考えていましたが、相続手続きを依頼した司法書士から、思わぬ事実を知らされました。

 

「不動産の相続登記のために司法書士の先生に戸籍謄本を取得してもらったところ、主人にはきょうだいがいて、その人たちも相続人になるといわれたのです。主人からは〈僕にはきょうだいはいない。ひとりっ子だよ〉と聞かされていて、ずっとそれを信じていたのですが…」

 

ご主人の財産を相続するのは自分だけだと思っていたのに、存在すら知らなかった相続人が現れたときの島田さんの動揺は計り知れません。

 

司法書士に詳しく話を聞いたところ、ご主人のお父さんに離婚歴があり、前妻さんとの間にお子さんが2人いるとのことでした。

 

異母きょうだいでも法律上の法定相続人にあたるため、相続する権利があるのです。

 

[図表]相談者の夫の相続人関係図

存在すら知らなかった人たちに遺産がわたるなんて…

「主人すら存在を知らなかったきょうだいですよ。司法書士の先生に〈なにかの間違いでは?〉と、思わず詰め寄ってしまいました」

 

「他人も同然のきょうだいとやらに主人の遺産がわたるなんて、絶対納得できません。遺産分割協議などはせず、このままでいるわけにはいきませんか…!?」

 

島田さんはいら立ちを隠せない様子でしたが、遺産分割協議を行わないと、たとえ預金口座のお金は全額引き出せたとしても、自宅の登記を島田さんの名義に変更することはできません。

 

島田さんには妹さんが1人いますが、もし、不動産の登記を行わずにご主人の名義のまま放置すれば、将来、島田さんに万が一のことがあった場合、島田さんの法定相続人である妹さんと、ご主人の異母きょうだいの方々が話し合いをすることになります。

 

問題を先送りしたところで、さらに複雑化するだけなのです。

 

島田さんが懸念するのは、ご主人のきょうだいへ自宅や銀行預金を分けることで、ご自身の今後の生活ができなくなるのではないか、ということでした。

 

「どうしよう、主人の財産が取られちゃう…」

「きょうだいの相続権」はどれくらいの割合になる?

では、具体的にどのくらいがご主人の母親違いのきょうだいに渡ることになるのでしょうか。

 

被相続人のきょうだいの相続分は、きょうだいの人数にかかわらず1/4です。また、島田さんのご主人のごきょうだいの場合、母親が違う「半血兄弟」に該当しますので、1/4の半分にあたる1/8が相続分です。

 

つまり、今回のケースでは、母親違いのきょうだいが2人、それぞれ1/16ずつ相続することになります。

 

筆者の説明に島田さんは、それなら自宅を売らなくてもすむと、胸をなでおろしていました。

遺言書があったなら、相続手続きはシンプルだったのに…

今回のケースで問題となったいちばんの原因は、ご主人が相続対策を行わなかったことにあります。複雑な親族関係があるのであれば、ご主人が遺言書を残すことが不可欠だったといえます。

 

ほんのひとこと「妻にすべてを相続させる」と書いた遺言書があったなら、銀行預金と不動産の相続手続きを行うことが可能だったのです。きょうだいには「遺留分」ないので、遺言書があれば争う余地もなく、それだけで相続が完了できたはずでした。

 

もしきょうだいが亡くなっていたとしても、その子どもたち、つまり甥姪が「代襲相続人」となります。そうなると、一層関係性が薄く、また人数も増える可能性が高いため、手続きはさらに厄介なものとなります。

 

ご夫婦の場合、お子さんがいれば、配偶者とお子さんが相続人となり、配偶者の親きょうだいには相続権がありません。しかし、お子さんがいなければ、亡くなった方の親御さんが健在なら親御さんが、親御さんが亡くなっていればごきょうだいが、ごきょうだいが亡くなっていればそのお子さんが、相続権を持つことになります。

 

ここでいう「きょうだい」には注意が必要で、上述の通り、亡くなった方のご両親に離婚歴や再婚歴がある場合、母親違い・父親違いのきょうだいにも、両親が同じきょうだいの半分ではありますが、相続権が発生します。

 

お子さんがいないご夫婦の場合は、残された配偶者の生活を守るためにも、とにかく遺言書を準備しておくことが重要だといえます。

 

 

岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

 

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