個別価格と一般物価
通常、私たちは個々の商品が値上がりすると、「物価が上がった」と感じます。しかし、じつはこの値上げは「個別価格」が上がったにすぎず、本来、物価と呼ばれる「一般物価」が上がったとは限らないのです。
スナック菓子「うまい棒」の値上がりが話題になりましたが、それはメーカーの都合によるものかもしれません。
物価というのは個別の商品ではなく、各商品の価格の上下を総合した指標であり、理論上はすべての物価を表します。
したがって、個別価格は各店舗で値札によって表示されていますが、「一般物価」は政府が統計や数式をもとに発表する「抽象的な数字」です。
このような個別価格と一般物価の違いは「ミクロ経済」と「マクロ経済」の違いでもあります。
ミクロ経済学は、企業、家計、政府など個々の経済主体の行動を具体的に分析するのに対し、マクロ経済学は、国家全体の経済活動を分析します。「部分と全体」という大きな違いがあるのです。
マクロ経済学の指標は「一般物価」であり、需要と供給も、「総需要」と「総供給」で表します。物価が継続的に上昇する「インフレーション(インフレ)」や物価が継続的に下降する「デフレーション(デフレ)」もマクロ経済学の領域です。
マクロ経済学によって「国家における経済政策」という視点、“支配者の視点”を獲得することができるのです。
「総合」と「コア」と「コアコア」
いま「一般物価」とは、すべての物価のことだと述べました。もちろん、すべての物価を調べることはできないので、よく消費されている600品目をピックアップし、その価格に応じた加重平均により指数化しているのです。
この指数が、基準年を100として、上がったか下がったかを見るのが「消費者物価指数(CPI)」です。これは「総合指数」とも呼ばれ、総務省が毎月発表しているものです。
さらに、より物価変動を把握しやすくするため、季節の変動を受けやすい生鮮食品を除いた「コアCPI」があり、ここからさらにエネルギーを除いた「コアコアCPI」という指数もあります。
じつは世界の中央銀行が使用する物価とはこの「コアコアCPI」を指しているのです。ところが日本では、コアCPIで定められており、これにはエネルギーが含まれているため、石油製品などのエネルギー価格の変動による影響を受けやすくなっています。
ウクライナ戦争やSDGsの影響でエネルギー価格が上昇している今はコアコアCPIで見たほうが間違わないでしょう。
インフレかどうかは、日本ではコアCPIの上昇で測りますが、海外では世界基準のコアコアCPIが4〜6%になって初めて「インフレ」だと認識するのです。
ポイント
・個別価格は「部分」、一般物価は「全体」
・マクロ経済学によって「支配者の視点」が得られる
・世界基準の物価指数は「コアコアCPI」だが日本は「コアCPI」
渡邉 哲也
作家・経済評論家