「子どものいない夫婦」は増加傾向に
近年の日本では、子どものいない夫婦が増加傾向にある。国立社会保証・人口問題研究所『出生動向基本調査』の「出生子ども数が0人の結婚持続期間15~19年の夫婦」の割合をみると、2021年調査は7.7%となっており、20年あまりで4ポイントほど増加している。
結婚20年目以降に子どもが誕生するケースは非常に少ないため、実質、この数値が「子どものいない夫婦」の割合を表すといっていいだろう。
◆出生子ども数が0人の結婚持続期間15~19年の夫婦の割合
1977年:3.0%
1982年:3.1%
1987年:2.7%
1992年:3.1%
1997年:3.7%
2002年:3.4%
2005年:5.6%
2010年:6.4%
2015年:6.2%
2021年:7.7%
出所:国立社会保証・人口問題研究所『出生動向基本調査』
経済面のみに焦点を当てた場合、「子どもがいる夫婦」と「子どものいない夫婦」では、子どものいない夫婦のほうが有利になる。
20~60歳まで働き、その間に正社員の平均給与を得ていたと仮定した場合、男性の生涯年収は2.2億円程度、女性は1.7億円程度。子どものいない夫婦の場合、出産や子育てに伴う生活の変化やキャリアの中断がないことから、生涯年収も高くなると予想される。
また、65歳から手にする年金額は、男性は16.9万円、女性は14.4万円となり、夫婦でおよそ月31万円。これを見る限り、年金だけで十分暮らしていけそうだ。現役中も引退後も、子どものいる夫婦と比べると、経済的なゆとりは非常に大きいといえる。
一方で、年齢を重ねたときに誰を頼るのか、という問題もある。
総務省統計局『令和2年国勢調査』によると、妻と死別した夫は全国で125万6,939人、夫と死別した妻は全国で463万0,725人となっている。60代を迎えると、夫と死別する妻が増え始め、80代前半では100万人に迫る(図表)。
女性のほうが男性よりも平均寿命が6年ほど長く、また、男性が年上の夫婦が多いことから、妻が残るケースのほうが多い。
潤沢な資産を生かし、優雅な高級老人ホームという選択肢も
富裕層も一般庶民も、年齢を重ねて体が動かなくなれば、介護が必要だ。
厚生労働省『介護給付費等実態統計月報』等から、年齢別の要介護認定者の割合をみると、「80~84歳」で26.4%、「85歳以上」で59.8%となっている。また、高齢者の介護は54.4%が同居家族、13.6%が別居家族、12.1%が事業者となっている。
子どものいない夫婦の場合は、配偶者を亡くせば、介護を頼れる親族がいないケースがほとんどだろう。そうなると、事業者を頼るしかない。
とはいえ、子育てをしていないぶん、十分な蓄えがあるだろう。そこで選択肢となるのが「老人ホーム」だ。最近は介護の必要がなくても入居できる「自立型有料老人ホーム」も増えている。
入居金は0~数億円、月額費用は10万~40万円と差が大きいが、費用が高ければ、当然サービスもよく環境もゴージャスだ。独居の不安もなくなることから、自宅を売却するなどして、終の棲家への移住を果たす人も多い。
子どものない夫婦ほど、相続対策が重要に
だが、子どものいない高齢者には、思わぬトラブルが降りかかってくるケースもある。それは相続だ。
子どものいない夫婦の場合、相続人は「残された妻あるいは夫」だけではない。亡くなった配偶者の親が存命なら親が、その親が亡くなっていればきょうだいが、きょうだいが亡くなっていれば甥姪が、相続人として名を連ねる。
亡くなった方が80代なら、その親もほとんど鬼籍だろうから、「きょうだい」が相続人となる可能性が高い。しかし、きょうだいも高齢なら亡くなっているケースもあり、その場合はその子どもである甥や姪が相続人だ。
配偶者の甥姪とまで親しく付き合っているケースは多くなく、そのため、彼らからビジネスライクな対応――「容赦のない権利の主張」をされる可能性は十分にある。
見送った配偶者が長患いをしていたり、介護のための大がかりなリフォーム等をしていたりしたら…。あるいは、ただの古い住宅なのに、立地がよくて評価が高く、遺産総額が高額になっていたら…。
十分な現預金があればいいが、そうでない場合、自宅を手放しての遺産分割の可能性もある。そうなれば、配偶者親族の相続分プラス、自宅の売却や住み替え等で費用がかさみ、想定よりも大幅に資産が減ることになりかねない。その結果、予定していた老人ホームへの入居がかなわなくなるかもしれないのだ。
子どものいない夫婦の場合、相続対策をしっかりしておかないと、晩年になってからこのような「まさか、なにかの間違いでは…」と呆然とするようなトラブルに見舞われるリスクがある。
だが、きょうだいや甥姪の場合は「遺留分」がない。そのため、遺言書でひとこと「全財産を妻(夫)へ」とあれば、このようなトラブルに見舞われる可能性はなくなる。配偶者の生活を守るためにも、子どものない夫婦なこの点をよく理解し、準備しておこう。安心して長い老後を過ごすためにも、用意周到な対策が重要なのだ。
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