(写真はイメージです/PIXTA)

米国の労働市場はFRBによる大幅な金融引締めもあって減速傾向が続いていたが、足元で非農業部門雇用者数や求人数の伸びが加速したほか、失業保険申請件数が減少するなど予想外に堅調を維持しています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の窪谷浩氏が、予想外に堅調を維持する米国労働市場について論じ解説します。

(労働供給)労働供給の回復が明確

これまでみたような堅調な労働需要に対して、22年末以降は労働供給が明確な回復を示しており、労働需給の逼迫を和らげる要因となっている。

 

[図表7]労働参加率(年代別)

 

労働供給を示す労働参加率は23年9月が62.8%と新型コロナ流行前の63.3%を▲0.5%ポイント下回っている。労働参加率を年齢別にみると55才以上では23年9月に38.8%と新型コロナ流行前の40.3%から依然として▲1.5%低くなっている(図表7)。

 

米国でも高齢化が進んでおり、高齢に伴う引退が増加するため、55才以上の労働参加率は構造的に低下傾向となる。

一方、働き盛りでプライムエイジと呼ばれる25~54才では23年9月が83.5%と新型コロナ流行前の83.0%を既に+0.5%ポイント上回り、02年5月以来の水準に回復していることが分かる(図表7)。

 

とくに、22年11月の82.3%からの回復が明確になっており、コロナ禍から回復過程で漸く労働供給の回復に弾みがついていることが分かる。

 

(賃金上昇率)低下基調が持続も、FRBの物価目標と整合的な水準を大幅に上回る

23年9月の失業率と1970年以来の水準を維持していることにみられるように労働需給は逼迫している(図表8)。

 

労働需給の逼迫を背景に時間当たり賃金(前年同月比)は23年9月が+4.2%と22年3月の+5.9%をピークに低下基調が持続し、21年6月以来の水準に低下した。

また、賃金・給与に加え、給付金も反映した雇用コスト指数も23年4-6月期が前年同期比+4.5%と22年10-12月期の+5.1%から2期連続で低下した。

しかしながら、FRBが物価目標とする2%と整合的な賃金上昇率の水準は3%台半ばとみられており、足元の賃金上昇率はこの水準を依然として大幅に上回っている。

一方、労働需給が逼迫し、人手不足が深刻化する中で、これまでは転職によって給与面などで好状況を得る機会が増加していたが、このような状況は一変してきた。個人の賃金を追加調査しているアトランタ連銀の賃金追跡指数で過去3ヵ月以内に転職した人(転職者)と転職していない人(非転職者)の賃金上昇率(前年同月比)は23年9月が転職者で+5.6%、非転職者で+5.0%となっており、両者の格差は0.6%ポイントである(図表9)。

 

これは、22年8月につけた2.8%ポイントからは大幅に縮小したことが分かる。このため、転職による賃金上昇の機会は減少しており、労働需給が緩和している可能性を示唆している。

 

[図表8]賃金上昇率および失業率 /[図表9]転職者および非転職者の賃金伸び率

3.今後の見通し

これまでみたようにFRBによる大幅な金融引締めにも関わらず、足元は非農業部門雇用者数や求人数などの増加ペースが加速しており、労働需要が予想外に堅調を維持していることを示している。しかしながら、FRBによる金融引締めが継続する中で、一般的には今後累積的な効果が示現し、労働需要は低下するとみられる。

一方、大企業、中小企業の採用計画は、大企業では21年10-12月期をピークに採用計画を下方修正する動きが続き、直近23年7-9月期はついに採用抑制の領域に入ってきた一方、中小企業では引き続き採用増加方向で安定しており、中小企業では依然として採用意欲が強い(図表10)。

また、これまで発表された経済指標からアトランタ連銀が推計するGDPナウは23年7-9月期の実質GDP成長率が前期比年率+5.1%と前期の+2.1%から大幅に上昇が見込まれるほか、2%近辺とみられる潜在成長率を大幅に上回る成長が見込まれている(図表11)。

足元の高成長は遅行指標である労働関連指標が当面堅調となる可能性を示唆している。

このため、金融引締めにも関わらず、中小企業の採用増加や足元の高成長もあって、当面は堅調な労働需要が見込まれ、労働需給の逼迫を背景に賃金上昇率はFRBが物価目標と整合的な水準を上回る状況が続こう。

 

[図表10]大企業、中小企業の採用計画 /[図表11]GDPナウ予想(23年7-9月期)

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年10月13日に公開したレポートを転載したものです。

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