<前回の記事>部下が従わないのも当然…無自覚にやる気を奪う〈ここ掘れワンワン系〉上司【Xフォロワー24万人超・元自衛官が解説】
「必要以上に厳しい規律」は逆効果
武器や兵器を運用する自衛隊では、厳しい規律が求められます。しかし、いかに自衛官であっても、必要以上に厳しい規律には反発心を抱き、結果として逆効果になることもあります。
たとえば、新任の指揮官が、「服務規律違反が起こるのは、部隊がゆるんでいるからだ」と考えて、規律を他の部隊よりも厳しくすることがあります。「勤務中はタバコを吸わせない」「若手隊員を外出させない」「報告義務の回数を増やす」などの施策を設けると、部隊の隊員は、「自分たちは信用されていない」「この部隊は終わっている」と不平不満を覚え、指揮官や部隊への不信感へつながっていきます。
すると、部隊の雰囲気が悪くなるだけでなく、「隠れてタバコを吸う」「隠れて外出をする」などの不正行為につながります。さらに、隊員同士の仲が悪くなり、演習などで殴り合いの喧嘩が発生することさえあります。そして、部隊への帰属意識がなくなっていき、最終的には、「自衛隊は馬鹿馬鹿しい」と若手隊員が退職し、部隊の弱体化にもつながります。
規律を必要以上に厳しくする指揮官は、「自分の任期中に服務事故を起こされたくない」という保身が強くなり、それを隊員に見抜かれてしまうので、うまくいかないことが多いのです。理由なき厳しい規律は、人の心を荒ませ、組織への不信感につながっていくので要注意と言えるでしょう。
厳しい規律を設けるときには、隊員に対して「なぜ設けるのか」と「いつまで行うのか」をはっきりと明示する必要があります。たとえば、「処分に至らない程度の軽い規律違反が発生したため、部隊の引き締めとして2週間は通常以上に規律を厳しくする」など明示するのです。
必要なのは「厳しい規律」でなく「律する手段」
一般的な部下隊員から見て、良い指揮官とは、「指示は必要最低限、各人に権限を与えて自主裁量の余地を与えて行動させて、ダメなら適切に修正する。いざというときの責任は俺が取る」というタイプです。このタイプの指揮官の魅力は、「親分を演じてくれること」です。隊員は人としての魅力を感じ、心を寄せるようになります。
そして、部隊がゆるんでいるように見えたら、規律を厳しくするのではなく、律する手段を講じる必要があります。そのため、それぞれの隊員が熱意を持てる勤務環境を作っていくことが重要です。訓練や運動が好きではなくても、ポスターや標語の作成や料理が好きという隊員もいます。彼らの意見をよく聞き、少しでも興味があることをやらせていけばグチなどは減っていきます。
そもそも、陸上自衛隊は指揮官に自主裁量の余地が多いため、指揮官が自分の裁量でそれぞれに適切な業務を与えることが重要になってくるのです。
まず、「勤務環境を醸成し」「指示は最小限に」「適時に進捗を確認し」「必要があれば修正すべき方向を示す」、そして、細かいことに動揺せず、「どっしり構えて親分らしく振る舞う」、これが大切ではないでしょうか?
人や組織は締めつけるだけではダメ
なお、規則があまり厳しくない部隊は、「陸上自衛隊最後のオアシス」「隠された桃源郷」などと隊員から呼ばれているケースがあります。
そう聞くと、やる気のなさそうなダメな部隊に思えますが、実はこのような部隊の方が、隊員一人ひとりが、「この勤務環境を守ろう!」という意識が強く規律が高いのです。また、新隊員の離職率も低く、優秀な隊員も長くこの部隊に残りたいと思うので、隊員を育てる環境が自動的に整備され、規律も練度も高い部隊ができあがります。
まるで、『北風と太陽』みたいな話ですが、人や組織は締めつけるだけではダメになってしまうと私は考えています。
ぱやぱやくん
防衛大学校卒の元陸上自衛官。退職後は会社員を経て、現在はエッセイストとして活躍中。名前の由来は、自衛隊時代に教官からよく言われた「お前らはいつもぱやぱやして!」という叱咤激励に由来する。著書に『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』『陸上自衛隊ますらお日記』(どちらもKADOKAWA)、『飯は食えるときに食っておく 寝れるときは寝る』(育鵬社)などがある。
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