マンション価格高騰の要因に「タワーマンション」あり
東京23区を中心に、首都圏近郊の新築マンション価格上昇が続いている。
不動産経済研究所の「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2023年8月」によると、2023年8月時点での首都圏の新築マンション平均価格は1戸当たり7,195万円。東京23区の平均価格はなんと8,597万円だ。
一方、国税庁のレポート「令和3年分 民間給与実態統計調査」によれば、給与所得者のなかで正規社員の平均給与は508万円。これでは都心のマンションなど、とても手が出ない。
マンション価格高騰の要因には、円安、人件費や資材価格の高騰といった要因もあるが、やはり「タワーマンションの増加」の影響が大きいだろう。
以前であれば、タワマンの建設エリアといえば東京都心から湾岸部が中心だったが、近年では郊外のみならず、地方の中核都市にまで建設されている。ある意味、プレミア感は薄れてきたが、それでも東京都心の物件は別格であり、郊外の物件も高層階なら億を超える。
だが、そんな「億ション」に暮すのは一部の富裕層だけではない。タワマン市場を牽引しているのは、いわゆる「パワーカップル」と呼ばれる夫婦なのである。「パワーカップル」には厳密な定義はないが、「世帯年収1,400万円以上、個人年収700万円以上、30〜50代のカップル」といったイメージになるようだ。
彼らの多くは消費意欲が高く、住まいはもちろん、子どもの教育費、身につけるもの、日々の食材などにも、惜しむことなくお金を使う。
働き盛り世代で世帯年収が高く、消費意欲も旺盛なパワーカップルは、通勤にも家庭生活にも便利で、ラグジュアリーな雰囲気を味わえる、都心のタワマンを選んでいる。
タワマン購入会社員カップルに潜む「ペアローン」のリスク
ニッセイ基礎研究所のレポートによれば、夫婦とも年収が700万円以上の世帯は、2020年では総世帯のうちの約0.62%、共働き世帯の2.1%だった。
しかし、このような「勝ち組パワーカップル」でも、億ション購入の負担は重い。そこで不動産会社の営業は「ペアローンにすれば、夫婦共に住宅ローン控除を使えますよ」とメリットを強調し、積極的に勧める。そして実際に、多くが単独のローンではなく「ペアローン」を利用することになる。
仮に世帯年収1,400万円のパワーカップルが、1億円のタワマン購入する場合、返済額はどうなるか。
無理のない住宅ローン返済額の目安「返済負担率30%」で考えると、毎月の返済額は35万円。金融機関の審査金利3.0%、返済期間30年でシミュレーションすると、毎月の返済額35万円の範囲内での借入可能額は、およそ8,300万円だ。これなら、自己資金を入れれば十分購入可能といえる。
だが一方で、夫婦がペアローンを組んでタワマンを購入した場合、「収入リスク」には十分な注意が必要だ。
ペアローンによるタワマン購入は、あくまでも夫婦ともに収入があることが前提だ。仮に40歳の夫婦なら、70歳まで双方が収入を維持することが条件になる。70歳までの30年間、夫婦ともに同じ収入が続くと想定するのは、少々楽観的過ぎるとはいえないだろうか。
もし仮に退職金で繰り上げ返済を行っても、適用金利1.0%で借入可能額8,300万円を借りている場合、60歳時点での借入残高はおよそ3,000万円。これでは老後資金が大きく減ってしまう。
人生にはトラブルがつきものだ。自分や配偶者の病気、親の介護などによって収入が減る・なくなるリスクもある。
そもそもペアローンは、互いに連帯保証をしている状態となるため、片方が払えなくなれば、もう片方に支払い義務が生じる。これは離婚したとしても関係ない。離婚して夫がローン全額を背負ったものの、負担が大きすぎて自己破産し、競売にかけたものの債務が残り、別れた妻にのしかかる…といった悲劇は現実に起きている。
ずっと同じ生活が維持できるなら、億ションの購入は可能だろう。だが、上述した「万が一」の事態が起きてしまったら、即ペアローンは行き詰り、すぐ目の前に破綻が迫ることになるのだ。
高層階から見渡す風景は絶景だろう。だが、購入にあたっては、人生のリスクを十分考慮したうえで、冷静な判断が求められるといえる。