◆外国債券が下落した要因
外国債券の下落は、アメリカとヨーロッパ諸国での「利上げ」継続の影響を受けたものです。詳しくは後ほど説明しますが、「利上げ」は債権価格の下落をもたらすのです。
「為替ヘッジあり」の外国債券は、利上げによる債券価格の下落に加え、為替ヘッジがあるせいでヘッジコストがかかっていること、為替差益が発生していないことが影響して、マイナスが発生しています。
これに対し、「為替ヘッジなし」の外国債券は、利上げによる債券価格が下落した一方、円安による為替差益が発生しています。しかし、為替差益よりも債券価格の下落幅の方が大きかったため、トータルでマイナスになっています。
◆国内債券が下落した要因
国内債券が下落した要因として考えられるのは、日銀が7月に、2013年以来継続してきた金融緩和政策を実質的に修正したことです。これには、昨今の円安ドル高と物価高騰が関係しています。
すなわち、アメリカやヨーロッパ諸国では利上げが相次いで行われてきているのに対し、日本は金利が低く抑えられたままです。それが、金利の高いドル等が買われ、金利の安い円が売られるという動きにつながり、円安の大きな要因になっています。また、2022年3月から始まったロシアのウクライナ侵攻の影響でエネルギー価格と食料価格が世界的に上昇し、円安もあいまって物価の高騰につながっています。
この事態を受けて、日銀は、長期金利(10年金利)の上限をこれまでの0.5%から1%へと柔軟化しました。これが利上げへの警戒を生み、債券価格の下落につながっています。実際、9月には長期金利が0.7%を超えました。
利上げをするとなぜ債券価格が下落するのか
このように、外国債券・国内債券が下落した主な要因はいずれも「利上げ」です。では、利上げをするとなぜ債券価格が下落するのでしょうか。
債券は、受け取れる利子(利金)の額が決まっています。金利が上昇して国債の利金の利率より高くなると、銀行に預けておいたほうが得だということで、債券が市場で売られることになります。その結果、債券価格は下落します。利金の額は発行時から決まっていて変動しないので、債券価格と利金を合わせた全体の資産価値も下落してしまうのです。
よく、金利と債券価格は逆相関の関係にあるといわれますが、上述した理由によります。
同じ「利上げ」だが…欧米と日本の決定的な違い
このように、国内債券も海外債券も「利上げ」の影響を受けて価格が下落しており、それが企業年金の運用利回りにマイナスの影響を及ぼしています。しかし、日本と欧米諸国では事情が異なります。
まず、欧米諸国で行われている利上げは、一度引き下げた金利を元に戻すという面があります。すなわち、2020年から続いた新型コロナウイルス禍で経済が停滞し、その対策として、欧米諸国では利下げが行われました。その結果、経済が回復し、インフレが発生したので、インフレを抑えるために利上げに転じたということです。今後、インフレが抑えられたら、今度は利下げに転じる可能性もあります。利上げは株価の抑制につながる側面もあるからです。
これに対し、日本の場合、1990年代後半から超低金利が続いてきました。新型コロナウイルス禍で経済活動が停滞した際には、利下げしようにもその余地がなかったということです。
では、外国との金利差を縮め、円安・物価高騰を抑えるためにさらなる利上げをすればよいかというと、そうもいきません。日本経済はコロナ禍の前後を通じて停滞しており、その状況で利上げをすると、企業が融資を受けにくくなり、個人はローンの返済が困難になるなどの影響が生じるおそれがあります。
しかも、利上げは債券価格の下落を招き、企業年金の運用利回りにさらなるマイナスの影響を及ぼすことになります。
長年、債券は、決まった額の利金を受け取れるのに加え、値動きが安定しており、安全な資産といわれてきました。確定給付企業年金だけでなく、公的年金においても、債券は運用方法として大きな比重を占めています。しかし、こと国内債券に関する限り、これからは、年金運用にマイナスの影響を及ぼすようになる可能性が憂慮されます。
すなわち、長年の超低金利政策によってこれ以上の利下げの余地が乏しい日本では、今後、利上げが行われることにより債券価格の下落を招くことが想定されます。そして、企業年金や公的年金の運用のあり方やポートフォリオが再検討を迫られることも考えられます。
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