(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。

 

●10月7日にイスラエルとハマスが衝突したが中東の歴史的な対立の根幹にあるのはパレスチナ問題。

●ハマスはイスラエル打倒を目指す武闘派で、今回は第4次中東戦争勃発から50年の節目で攻撃。

●中東情勢の緊迫化による原油高はリスクだが、今のところ比較的冷静に状況を見守ることが可能。

10月7日にイスラエルとハマスが衝突したが中東の歴史的な対立の根幹にあるのはパレスチナ問題

パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスは10月7日、イスラエルに対して多数のロケット弾を発射し、攻撃を開始しました。これに対し、イスラエル軍はガザ地区への報復空爆を行い、ネタニヤフ首相は「われわれは戦争状態にある」とする声明を発表しました。今回のレポートでは、イスラエルとハマスの衝突の背景と、金融市場への影響について考えます。

 

中東の歴史的な対立の根幹にあるのは「パレスチナ問題」です(図表1)。パレスチナは、地中海の一番東の沿岸に位置し、この地にあるエルサレムには、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、それぞれの聖地があり、宗教上とても重要な地域です。第2次世界大戦後、移住したユダヤ人によりイスラエルが1948年に建国されると、アラブ側は強硬に反対し、同年以降、4度の中東戦争が勃発しました。

 

[図表1]パレスチナ問題を巡る過去の主な動き

ハマスはイスラエル打倒を目指す武闘派で、今回は第4次中東戦争勃発から50年の節目で攻撃

イスラエルと、アラブ側の組織であるパレスチナ解放機構(PLO)は1993年、一定の地域でアラブ系パレスチナ人によるパレスチナの自治を認める約束をし(オスロ合意)、翌年ガザ地区とヨルダン川西岸地区がパレスチナ自治区となり、1995年にパレスチナ自治政府が設立されました。ただ、ハマスが2007年にガザ地区を武力制圧したことで、パレスチナは自治政府が統治するヨルダン川西岸地区とガザ地区に分裂しました。

 

ハマスは、武力によるイスラエル打倒とパレスチナでのイスラム国家樹立を目指しており、イスラエルはハマスが実効支配するガザ地区に対し軍事封鎖を続けるなど、すでにオスロ合意は事実上崩壊しています。なお、ハマスがイスラエルに攻撃を行った10月7日は、第4次中東戦争勃発(1973年10月6日)から50年の節目となる日で、ハマスはイスラエルとサウジアラビアの国交正常化阻止を狙ったとの見方もあります。

中東情勢の緊迫化による原油高はリスクだが、今のところ比較的冷静に状況を見守ることが可能

イスラエルとハマスの衝突を受け、10月9日のWTI原油先物価格は、前週末比4.3%上昇し、1バレル=86ドル38セントで取引を終了しました。中東情勢の緊迫化は、原油高という形で、金融市場に影響を与える恐れがあります。今回、イランがハマスに協力していたとの報道もあり、イスラエルへの軍事支援強化を表明している米国が、イランに追加の経済制裁を科せば、原油供給に対する不安が市場に広がることも想定されます。

 

一般に、地政学リスクなど、市場で予期せぬ悪材料が発生した場合、確認すべきは(1)金融システムへの影響、(2)流動性への影響、(3)他国・他地域への影響、の3点で(図表2)、いずれも問題がなければ過度な懸念は不要と考えます。今回は、米国や中東周辺国を巻き込む形で紛争が広がるか否か、すなわち(3)が焦点となりますが、中東ではハマスと距離を置く国も見受けられ、比較的冷静に状況を見守ることができると思われます。

 

[図表2]悪材料の発生時に確認すべき点

 

(2023年10月10日)

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『イスラエルとハマスの衝突が「金融市場」に与える影響【三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジストが解説】 』を参照)。

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

 

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