「生活保護費の引き下げ」に“裁判所”が相次いで「違法」判決…背景に何があるのか【弁護士に聞く】

「生活保護費の引き下げ」に“裁判所”が相次いで「違法」判決…背景に何があるのか【弁護士に聞く】
(※画像はイメージです/PIXTA)

広島県内の生活保護受給者らが、生活保護費の引き下げの決定の取り消しを求めた訴訟で、2023年10月2日、広島地方裁判所は、減額決定の取消判決を下しました。同様の訴訟が各地で提起されており、原告を勝訴させた判決は12件目です。以前は、このような訴訟で国・自治体に勝訴するのは難しいとされてきましたが、何が起きているのでしょうか。弁護士の荒川香遥氏(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)に聞きました。

判決は「最高裁判例」の判断枠組みに従っている

今回の広島地裁の判決といい、他の地裁で下されている同種の判決といい、行政側を敗訴させています。以前は、行政を相手取ってこのような訴訟を起こしても、勝訴するのは困難でした。最高裁判例は国会・行政の「裁量」を広く認めており、それがネックとなってきたのです。

 

しかし、一連の勝訴判決が最高裁判例に逆らったものかというと、そうではありません。実は、いずれも最高裁判例の基準に従い、その判断枠組みに則って、原告を勝訴させています。

 

そこで、リーディングケースとなっている最高裁判例(堀木訴訟判決(最判昭和57年(1982年)7月7日)について説明しておきましょう。

 

この事案は、「障害福祉年金」と「児童扶養手当」を併せて受給できるかが争われたものです。

 

兵庫県に住む視力障害者でシングルマザーのXさんは「障害福祉年金」を受給していました。しかし、それだけでは生活が苦しいということで、母子家庭のための「児童扶養手当」の受給を兵庫県知事に請求しました。そうしたら、法律に公的年金との併給禁止規定があったため、拒否処分を受けてしまいました。

 

そこで、Xさんは、県知事の拒否処分が生存権を保障した憲法25条等に違反するとして訴訟を提起しました。

 

この訴訟は最高裁まで争われ、最高裁は原告敗訴の判決を下しました。その判決理由の概要は以下の通りです。

 

・社会保障制度に関する法律の制定については、国会の広い裁量が認められる

・裁判所は国会の裁量を尊重しなければならず、その裁量が「著しく不合理」で「明らかに逸脱・濫用」と認められない限り、違憲・違法についての判断ができない

 

なお、この判決文は国会の立法に言及しているのみですが、行政庁が法令に基づいて行う具体的な処分についてもあてはまるとされています。

 

これは一見、「腰が引けた」態度のようにも思えます。しかし、最高裁がこのような判断枠組みを示したのには理由があります。

 

国の「三権」(立法権、行政権、司法権)のうち、司法権をもつ裁判所だけが、国民による選挙で選ばれていない人(裁判官)だけで構成されています。国民の「民主的コントロール」が及んでいません。また、裁判所が判断の基礎とできるのは、あくまでも裁判の当事者が提出した事実・証拠に限られます。さらに、裁判所は法律の専門家であっても社会保障政策の専門家ではありません。

 

これに対し、立法権をもつ国会は国民によって直接選挙された人(国会議員)で構成され、行政権をもつ内閣のトップである首相は国会議員なので、国民の「民主的コントロール」の下にあります(実態はともかくとして、あくまで建前はそうなっています)。また、国会・内閣はありとあらゆる情報を収集し、かつ、それぞれの分野の専門家を多数抱えています。

 

荒川香遥弁護士

 

したがって、裁判所は国会や政府の「裁量」を基本的に尊重せざるをえない、ということです。

 

この判例の立場を前提とすると、生活保護の給付額の決定についても、「著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用である」場合、つまり、よほどひどい場合でなければ、違憲・違法の判断ができないことになります。

 

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