(※写真はイメージです/PIXTA)

父から贈与を受けた/受けていないで訴訟になったX氏。裁判によって贈与そのものが失くなる可能性があったため、贈与税の申告は後回しにしていました。裁判の結果としては、父からの贈与を受けた、という判断に。あとから贈与税の申告をしますが、事態は思わぬ方向へ……。本記事では、X氏の事例を取り上げ、贈与税の「期限後申告」が認められないケースについて、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)より、同氏が解説します。

事例の争点

Xが法定申告期限内に贈与税の申告書を提出しなかったことについて、通則法66条1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に当たるか否か。

 

当事者の主張

■納税者側の主張

本件贈与は、別件訴訟においてAから実質的に撤回が主張されるなどして、その効力が争われたため、贈与の効力が未確定の状態にあったことから、Xには、期限内申告書の提出がなかったことについて「正当な理由がある」と認められる。

 

贈与は、無効や取消しがあり得るから、その法的効果は不確定なものであり、訴訟において贈与の無効が主張されることで不確定性が高まるところ、本件では、贈与者たる父(A)から受贈者たる子(X)に対して贈与の無効を主張した訴訟が提起されたこと自体が「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情」に該当する。

 

主な証拠(根拠):別件訴訟の判決書

 

■国側の主張

本件贈与は、別件訴訟によって必ずしも、その事実が否定されるものであったとはいえず、当該可能性があったというにとどまるものである。

 

また、Xは、本件贈与があった日(平成26年9月)に甲会社の代表者の異動があったとする異動届書を提出するとともに、別件訴訟が提起された日の前後において開催された臨時株主総会において、本件贈与に係る株式の議決権を行使し、役員の改選等をしている。これら一連のXの行為は、本件贈与が有効であることを当然の前提として行われたものである。(※下線筆者)

 

さらに、Xは、別件訴訟において本件贈与は有効である旨主張していたのであって、法定申告期限において、本件贈与は有効であると認識していたことは明らかである。(※下線筆者)

 

以上からすれば、本件贈与により、Xの贈与税に係る納税義務が成立し、Xは本件贈与が有効であることを認識していたものである上、仮に、別件訴訟において本件贈与の成立が否定されたとしても更正の請求をすることができたことからすれば、「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情」があったとは認められない。

 

主な証拠(根拠):甲会社の履歴事項全部証明・異動届出書

 

裁判所の判断

1 「正当な理由があると認められる場合」の意義

本判決では、通則法66条1項ただし書きに規定する「正当な理由があると認められる場合」の意義について以下のとおり判示した。

 

通則法66条が定める無申告加算税は、申告納税方式による国税に関して、法定申告期限を遵守して申告をした者とこれをしなかった者との間に生ずる不公平を是正するとともに、申告義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置と解される。

 

かかる無申告加算税の趣旨に照らせば、期限内申告書の提出がなかったとしても例外的に無申告加算税が課されていない場合として通則法66条1項ただし書が定めた「正当な理由があると認められる場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課すること不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。(過少申告加算税に関する判例であるが、最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決)。

 

2 裁判所の判断

本判決は、「正当な理由があると認められる場合」を上記1のとおり解した上で、本件において当該規範が当てはまるか否かについて、次頁のとおり判断している。

 

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