注意が必要…「遺族基礎年金」を受給できる条件
筆者のもとに、49歳の専業主婦の方が相談に見えました。いろいろな報道を見聞きするうち、ご自身の老後について不安が募ってきたといいます。
「私は就職氷河期世代で、非正規従業員としてキャリアをスタートしました。収入も上がらず、焦っていたところ、35歳のときに3歳年上の夫と知り合い、結婚しました。本当は子どもがほしかったのですが、授からなかったため諦めました」
「心配なのは、夫に万が一のことがあった場合です。夫はあまり体が丈夫でないうえ、仕事が人手不足のためにハードワークが続いています。しかし私は、結婚以来夫から〈君は家庭を守ってほしい〉といわれ、専業主婦をしてきました。そのため、自分ひとりで生きていくイメージは描けません。子どももいませんし、将来が心配です」
「高齢になって介護が必要になったら、どうすればいいのでしょう。また、早くに夫を亡くしたら、その後の生活はどうなるのでしょう?」
厚生労働省の調査によれば、平均初婚年齢は男性31歳、女性29歳、第1子出生時の母の平均年齢は30歳で、初婚年齢と第1子出生時の母の年齢は、年々上昇傾向にあるといえます。それに伴い、子どもをもたない夫婦も増えているようです。いま、夫婦10組のうち1組には子どもがいない状況になっているといわれています。
結論から申し上げると、ご主人に万が一のことがあった場合は「遺族年金」がもらえます。また、遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。
注意が必要なのは、遺族基礎年金をもらえるのは、子どもがいる配偶者か子どものみで、子どものいない夫婦の場合はもらえない、という点です。
遺族厚生年金は、もらえる人に優先順位が付けられていますが、子どものいない夫婦で、会社員だったご主人を亡くしたときは、年金をもらうことができます。
【優先順位:高】
・子のいる妻
・子(18歳まで、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある)
・子のいる55歳以上の夫(受給開始は60歳)
【優先順位:中】
・子のない妻(子のない30歳未満の妻は、5年間のみ受給)
・子のない55歳以上の夫
・55歳以上の父母(受給開始は60歳から)
・孫(18歳まで、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある)
【優先順位:低】
・55歳以上の祖父母(受給開始は60歳から)
以上のことから、子どものいない夫婦で、会社員の夫を亡くした場合は、遺族厚生年金のみをもらうことができます。
夫に先立たれた妻、遺族年金だけで暮らすのは非現実的!?
では、子どものいない専業夫婦の妻が会社員の夫に先立たれた場合、遺族年金だけで生活することは可能でしょうか。
遺族厚生年金は亡くなった夫が受け取るはずだった老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の金額が支払われます。この報酬比例部分の計算では、厚生年金の被保険者期間が300月、つまり25年未満であった場合も、300月とみなして計算してくれることがポイントです。
具体的な金額で説明すると、仮に夫の月給が約41万円の場合、65歳からもらえる老齢厚生年金は毎月約7万円です。その場合の遺族厚生年金は4分の3の額なので、妻が受け取る金額はおよそ5万円です。
一応、妻が65歳になるまでは、「中高齢寡婦加算」が上乗せされます。これは夫が40歳以上65歳未満で亡くなった場合、子どもがいないのであれば、毎月5万円ほど加算される制度です。
したがって、子どものいない専業主婦の妻だけが遺された場合、遺族年金の受給プランは以下の図表のようになります。
それにより、遺族厚生年金と中高齢寡婦加算両方合わせたとしても毎月10万円程度であることがわかります。
試算結果を見た相談者の方は相当ショックだったようで、泣き声になりながら「この計算、正しいですか?」「なにかの間違いでは?」と繰り返していましたが、そもそも論として、遺族年金のみで暮らすことは考えない方がいいでしょう。不安の少ない老後生活を送るためにも、いまからでも就労することをお勧めします。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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