相続の現場で、しばしば取り上げられる「子のない夫婦」の問題。夫婦で築き上げた資産が、亡き配偶者の親族に流れることを危惧するケースがある一方、資産家の配偶者が先祖代々承継してきた財産の大半が、血縁のない配偶者に渡ることを警戒するケースもあります。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。

先祖代々の財産も、子がなければ「血縁の外」へ

相続の現場では、しばしば「子のいない夫婦」が問題になります。

 

子どもがない方に相続が発生すると、①配偶者と親、②配偶者ときょうだい(ごきょうだいに亡くなっている方がいれば、甥姪)、という順番に相続人になっていきます。

 

①の配偶者と親が相続人になるケースでは、配偶者3分の2、親が3分の1という割合で相続を受けることになります。②の配偶者ときょうだいが相続人になるケースだと、配偶者が4分の3、きょうだいが4分の1という割合で相続を受けることになります。

 

このような法律の取り決めが、しばしば亡くなった方の血縁の親族に「割り切れない思い」を抱かせることになるのです。

 

ある相談者の方の例です。資産家の父親が還暦を前に亡くなりました。母親はすでに鬼籍であったことから、結婚したばかりの長男が3億円を超える不動産を引き継ぐなど、最も多くの遺産を相続し、ほかのきょうだいは現預金を中心に相続しました。しかし、それからわずか数年後、まだ30代だった長男が不慮の事故で亡くなりました。長男夫婦の間には子どもがいません。

 

亡くなった方に配偶者はいるが子どもがいないケースでは、法律上、配偶者が資産の多くを相続します。この例のように、両親も亡くなっていれば、上記の②で説明した通り、4分の3の資産が配偶者に渡ることになります。

 

しかし、血縁の親族からみると、先祖伝来の不動産にたいしては「〇〇家代々の資産」という意識が残っているものです。それを考えると、配偶者がそれらのほとんどを相続するという法的な着地には、かなり違和感が残るといえるでしょう。実際、亡くなった方のきょうだいも、「父の相続では、長兄が跡継ぎだからこそ了承した遺産分割だったのに、このような結末になり、納得できない思いです」と、複雑な心情を口にしました。

 

これが、「家制度」が廃止されたあとの「法定相続制度」の実際です。

養子、遺言書…先祖代々の財産を血縁の親族に残す方法

子のない夫婦の場合、配偶者側に財産が渡るのを防ぐ方法は、「養子」をとるか「遺言書」を遺すかのどちらかです。「先祖代々の土地等を承継しているが、子どもがない」という夫婦の場合、これらを想定して「養子」をとっているケースも多く見られます。

 

養子といっても、ドラマのように子どものころから実の親と引き離すわけではなく、子どもが成人に近づくなどして分別がついたあたりで事情を話し、「名字は変わるが、伯父さんの家へ養子にいかないか?」などと調整することが多いといえます。「養子」という制度は誤解されがちですが、養子に入ったからといって実の親との関係性が切れることはなく、上記の例でいえば「実の親の子どもでありながら、伯父の子どもでもある」という二重の立場を取得することになります。

 

相続の場面では、財産移転のため、法技術的に用いられている印象があります。実際に筆者の周りでも、相続の関係で名字が変わったという話は多く聞きます。

 

他方、「養子」制度を利用しないなら、「遺言書」で調整するほかありません。もちろん、残された配偶者の生活資金等はじゅうぶんに考慮すべきですが、先祖代々の土地については、配偶者とはいえ、別の家へと引き継がれていくことに違和感を持つ資産家の方は多いでしょう。

 

そのような状況が推測される方の場合は、預貯金等や自宅は配偶者に相続してもらい、先祖代々の土地はきょうだい・甥姪に渡すという内容の遺言書を作成していることが多くあります。

いずれ地主は「解体されていく」運命か

現状の相続税制度を継続すれば、近い将来、日本の地主たちはみな解体され、消えていくのではないでしょうか。個人主義の考えが定着した現代では、それはそれで自然な流れなのかもしれません。

 

ただ、20~30年前をふりかえると、すでに現状とほぼ同様の法制度だったものの、社会的な感覚としては「財産は跡取りへ」という考えが残っていたようです。他方、近年では法的な意識や個人主義的な意識が高まりつつも、「家・跡取り」という考えを強くもつ方も一定数存在しています。

 

いうなれば現在は、「家制度」から「個人主義」への過渡期なのであり、多発する相続トラブルは、このようなタイミングに起因するものだといえるでしょう。

 

資産家の方が相続トラブルを回避するには、自発的な行動が不可欠です。せっかく資産を保有していても、成り行き任せでいては、残された配偶者や親族にトラブルの種を遺すことになりかねません。

 

多くの相続の現場に立ち会ってきた経験から、つくづく、相続対策は遺された方への思いやりだと実感します。大切な方の人生を守るためにも、ぜひ早い段階で検討してください。

 

(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)

 

 

山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦

 

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