老後資金〈800万円でいける説〉を信じる60代夫婦…「田舎で丁寧な暮らし、いいね」「ねー」夢のシニア生活に潜む将来不安

老後資金〈800万円でいける説〉を信じる60代夫婦…「田舎で丁寧な暮らし、いいね」「ねー」夢のシニア生活に潜む将来不安
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本の中高年を震撼させた「年金2,000万円問題」。それ以後、若い世代も含め、年金や老後資金は日本人の大きな関心ごとになっている。老後資金の必要額には「2,000万円」「800万円」など諸説あり、人情としては少ない方を信じたいもの。だが、甘い見通しは老後破綻に直結する。自身の将来については、慎重にライフプランを描くことが欠かせないのだ。

2,000万円説に、800万円説…老後、一体いくら必要なのか?

日本国民の多くが関心を寄せている「老後資金」の問題。半ば合言葉と化したのは、なんといっても「夫婦で2,000万円」だろう。いまとなっては「老後に向けた貯蓄の目標金額」=「2,000万円」と、日本人のほとんどに刷り込まれているといっていい。

 

だが、それほどの資金は必要ないという説もある。それが「夫婦で800万円」説だ。その差額、1,400万円。相当大きな開きだといえるが、一体なぜ、そのような主張の違いが生じるのか。

 

これらの主張の根拠だが、いずれも総務省が発表する『家計調査 家計収支編』による。

 

「2,000万円問題」の際に根拠とされたのは、その2017年の「ともに65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の家計収支だ。実収入が20万9,198万円に対し、実支出が26万3,717円。1ヵ月で5万4,519円不足となり、30年間の不足額として1,962万6,840円となった結果、「だいたい2,000万円ぐらい足りない」という話になった。

 

一方の「800万円不足」の主張の論拠はというと、2022年の同調査。実収入24万6,237円に対し、実支出は26万8,508円で、1ヵ月の不足額は2万2,271円。30年間の不足額は801万7,560円、「だいたい800万円ぐらい足りない」となったのである。

 

では、過去5年分の同調査結果を振り返ってみると、どういう結果になるだろうか?

 

◆2018年

実収入:22万2,834円/実収入:26万4,707円/30年間の収支

→ ▲1,507万3,920円

 

◆2019年

実収入23万7,659円/実収入:27万0,929円/30年間の収支

→ ▲1,165万3,250円

 

◆2020年

実収入:26万6,056円/実収入:26万3,662円/30年間の収支

→ 86万1,840円

 

◆2021年

実収入:23万6,576円/実収入:25万5,100円/30年間の収支

→ ▲666万8,640円

 

◆2022年

実収入:24万6,237円/実収入:26万8,508円/30年間の収支

→ ▲801万7,560円

 

見てわかるように、かなりのバラツキがあり、2020年に至っては、収支はプラスだ。つまり、老後資金の必要額について、明確な答えは出しにくいといえる。

老後で警戒すべき事態…急な出費・健康、社会情勢、年金の目減り

直近の調査結果をみる限り、「老後資金〈2,000万円必要説〉は盛りすぎ…?」という気もしてくる。だが、もし年金生活に入る65歳の高齢者夫婦が「800万円」の貯金を頼りに老後生活に突入すると、どうなるだろう。

 

その答えは人それぞれであり、万人に共通するものは導けない。ある人は800万円で足りるかもしれないが、ある人はすぐさま老後破綻するかもしれない。どこに暮らし、どのような生活を送るかによって、各家庭、生活にかかる費用はまったく違うのである。

 

60代になったばかりのあるご夫婦は語る。

 

「私の憧れの先輩が、静岡県で田舎暮らしをしているんです。まさに〈ていねいな暮らし〉で、お味噌を仕込んだり、季節の果物をジャムにしたり、本当に楽しそうで…」

 

「800万円を手元に残しておけば、なんとかなるっていうし。どこか田舎に、小さな畑つきの中古住宅を買って、妻と2人、これから先はのんびりするのもいいねって話しているんですよ」

 

2人は幸せそうに顔を見合わせる。

 

もちろん、実現できたらとても素晴らしいだろう。だが、シニア生活には注意すべきポイントがいくつもある。

 

警戒すべき事態(1)…健康・住環境・家族等にまつわる突発的な出費

 

年齢を重ねれば、だれもが無縁ではいられないのが健康的なリスクだ。ときには突発的にお金が必要になることもあるかもしれない。自分はまだまだ大丈夫だと考えていても、急に医療費や介護費が必要となるなど、想定外の手痛い出費を余儀なくされることも。

 

また、日本の高齢者は9割が持ち家だが、住み続けるにはリフォーム等が不可欠になる。10~15年単位で必要になる外壁や屋根の修繕はもちろんだが、最近の異常気象で発生する規格外の台風、豪雨、懸念されている大地震など、万が一の事態の発生も否定できない。

 

また、老夫婦2人でのんびり…と思っているところに、とっくに巣立ったはずの子どもが孫を連れて出戻ってくるケースもある。一時的な同居ならともかく、居つかれてしまうと、日常の生活費が膨らむほか、長期的に見ても、老後の資金計画が大きく狂ってしまうだろう。

 

警戒すべき事態(2)…予想を上回るインフレ

 

長年にわたりデフレの感覚が染みついた日本人。このところの急激なインフレに懐を痛めている人も多いだろう。現役世代の場合は仕事を増やすなどの選択肢で急場をしのぐことも可能だが、年金と預貯金に頼る高齢者は、急な物価上昇に対応できない可能性もある。

 

警戒すべき事態(3)…年金の目減り

 

年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合かを示す「所得代替率」だが、2019年時点ではかろうじて60%強を保っているものの、2040年代中ごろには50%ほどになるといわれている。要するに、年金は2割ほど目減りする可能性が高いのだ。

 

年金収入が2割減少するということは、当然だが、老後資金の不足額もさらに拡大することになるだろう。

老後生活が何年続くかは、神様にしかわからない

世の中で言われているアドバイスに従っても、老後破綻という最悪の結果を迎える高齢者夫婦もいる。根本的な問題としてまず考えられるのが「老後のために〇〇円必要」という説を、なにも考慮しないまま取り入れてしまうことがあるだろう。

 

アドバイスの論拠となる数字は、あくまでも統計から導き出した平均値だ。参考程度とし、自身の将来の生活については、リスクを盛り込んだうえでシミュレーションしておくことが必要だ。

 

どこまで本気かはともかく、シニア世代には「どうせ長生きしないから」「ポックリ逝くから大丈夫」などと話す人も多い。だが、老後生活が何年続くのかは神様にしかわからないし、しかもその間、ずっと平穏な状況が続くとは考えにくい。今日元気でも、明日から介護が必要になるかもしれないのだ。あまり考えたくないかもしれないが、そのようなリスクを踏まえたうえで、しっかりとしたライフプランニングを描くことが必要だろう。

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