少年王ツタンカーメン ~8、9歳で即位・結婚⇒19歳で死没
もなか:「この時まだ8歳とか9歳だったから少年王という異名があるね。そんなツタンカーメンは、まだ子供だけど即位してすぐ結婚しているのさ。その相手とは…。」
みるく:「ごくり。」
もなか:「アンケセナーメンだ。」
みるく:「ええ!? アンケセナーメンちゃんて…母親違いのお姉さんやん!」
もなか:「ああ。異母姉弟だから父親は同じアクエンアテン。そして母親同士もいとこであり…とにかくものすごい近親婚だ。」
みるく:「大丈夫なんか!?」
もなか:「この時、アンケセナーメンは既にアクエンアテンの子を産んでいたことからツタンカーメンより少なくとも7歳ぐらい年上だったとみられている。夫婦仲は良好で、2人の仲睦まじい様子は壁画などに多く描かれているよ(図表6)。ツタンカーメンはスメンクカラーに引き続き、アクエンアテンの宗教改革をもとに戻すため、テーベの王宮に住み、伝統的な多神教の神々を復活させ、古い神殿を再開。」
みるく:「どんどん戻されていくやん。アクエンアテン全否定やん。」
もなか:「体の弱いツタンカーメンだから、神官の言うことを聞いていただけなのではという見方もあるけどね。じつはツタンカーメンとアンケセナーメンの名は、アクエンアテン時代のアテン信仰から従来のアメン信仰に戻した後の名前だ。名前の最後に『アメン』が入ってるのがわかるだろ。」
みるく:「たしかに。」
もなか:「生まれた時の名は、『ツタンカーテン』。」
みるく:「カーテン!」
もなか:「アンケセナーメンは元々『アンケセンパーテン』だった。」
みるく:「どちらも名前にアテン神が感じられるわね。」
もなか:「そのためアンケセナーメンが父アクエンアテンとの間に産んだ子供の名は、『アンケセンパーテン・タシェリト(小さなアンケセンパーテン、の意味)』。この子がどうなったのか記録にないんだけどね。」
みるく:「うぅ、アンケセナーメンちゃんも大変な人生だわ。」
もなか:「そしてツタンカーメンにも子供がいたと言われる。彼の墓には2体の胎児のミイラが見つかっているんだ。この2体は双子で、ツタンカーメンとアンケセナーメンの子供だと見られていた。だが、DNA鑑定の結果、父親はツタンカーメンだけど母親はアンケセナーメンではないことがわかった。」
みるく:「ええ!?」
もなか:「双子ではないと仮定するなら、片方の胎児の母親はアンケセナーメンの可能性はあるという。しかし、少なくとも胎児の――1人は別の女性との子供だったのさ。」
もなか:「ツタンカーメン自身がかなりの近親婚で生まれているから、その影響で胎児も健康に生まれてくることができなかったのだろうと思われる。」
みるく:「悲しいわねー。」
もなか:「そんなツタンカーメンは、わずか19歳で亡くなってしまう。」
みるく:「早すぎるわー!」
もなか:「以前はいろいろな説があったんだけど、2010年の調査で謎がだいぶ解けたのさ。」
みるく:「おおお、判明したのね!」
もなか:「原因は左の大腿骨の骨折と、マラリアだとわかった。ツタンカーメンは生前、何度もマラリアにかかっていて、骨折した時もマラリアで怪我の回復が遅れ、傷口から敗血症になって亡くなったと見られている。大腿骨の骨折は今でもバイクの転倒なんかで起こるから、チャリオットと呼ばれる二輪の戦車から落ちたのではといわれているよ。皮膚から骨が出るほどの骨折だったという。」
みるく:「ひー! でも、骨折してマラリアにもなってるのに戦車に乗るかしら。」
もなか:「ツタンカーメンは病弱だけど、けっこう活動的だったらしい。以前は、ミイラの後頭部が骨折していたことから誰かに殴られたと思われていた。」
みるく:「ツタンカーメンが別の女性と子供作ったから、アンケセナーメンちゃんにぶん殴られたのね。」
もなか:「気の強すぎる妻ばっかりか! そうじゃなくて、ハワード・カーター(図表7)がツタンカーメンの墓を発見し、ミイラを取り出した時に損傷させたものだと結論づけられたんだよ。」
みるく:「何しとんねんハワード・カーター!」
-----------------------------------------------------------
【監修者・平松氏のワンポイント】:みんなうっかりさん
2014年ツタンカーメンの黄金のマスクのあごヒゲ部分が、清掃作業中にはずれ、博物館の職員が強力接着剤で付け直したことが発覚して大問題になりました。2015年に大修復作業は終わりましたが、清掃員も博物館の職員も呪われなければ良いのですが…。
-----------------------------------------------------------
もなか:「近親婚の末に病弱な体で生まれたツタンカーメンだけど、彼もエジプトのためアメン信仰の回帰に努めた。痛みを抱えながら、それでもファラオとして世継ぎを残そうとしたことは2体の胎児が物語っている。」
みるく:「短い人生だったけど、王としてツタンカーメンは精一杯生きたのね…。そんでスメンクカラーといいツタンカーメンといい、アクエンアテンのフォローが大変やな。」
もなか:「たしかに、急すぎた宗教改革を戻す作業をずっとやってる感じだな。」
【著】弥嶋 よつば
「よつばch」を運営する、世界史ゆっくり解説系YouTuber。学生時代に家系図に興味をもったことがきっかけで世界の王家・名家の歴史に深い関心を抱くようになり、2020年に初めて解説動画をYouTubeにアップしたところ、1ヵ月で登録者数2.5万人となった。これまでにハプスブルク家、メディチ家、ロマノフ家などの動画が人気をあつめ、現在登録者数19.7万人(2023年9月)。
【監修】平松 健
河合塾世界史科講師。高校時代にポエニ戦争のハンニバルのアルプス越えに衝撃を受け大学でローマ史を学ぶ。大学在学中に塾講師のアルバイトをしたことで予備校講師を志す。その後、予備校講師として勤務する傍ら、大学院に進学し「歴史を学ぶ意味」や「暗記型授業」からの脱却を研究する。「受験は楽しく乗り切る」がモットーで授業中は笑い声が絶えない。また、授業内容は受験に関する知識にとどまらない深い話も多く、「受験にとどまらない世界史を学ぶことができた」との声が毎年寄せられる。著書に『改訂版 大学入学共通テスト 世界史B予想問題集』(KADOKAWA)がある。YouTubeチャンネル「平松の世界史鉄則集」も好評。