画像:PIXTA

就業規則や労働時間、賃金、人間関係などで、「これってどうなんだろう?」という「職場の疑問」を感じたことはありませんか? 社会保険労務士である村井真子氏の著書『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)より一部抜粋して紹介する本連載。実際の現場で起こり得る企業の曖昧な状況について、疑問に答える形で社会保険労務士が分かりやすく解説します。

企業には「労働者の健康を守る義務」がある

Q:商品開発部で働く同僚。仕事が好きすぎて連日徹夜だそうです。

A:企業には労働時間の管理と健康を守る義務があります。

 

仕事が楽しいからといって徹夜を続けると健康リスクが高まります。厚生労働省の健康情報サイトでは、「慢性的な寝不足状態にある人は糖尿病や心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患といった生活習慣病に罹りやすい」と言及されており*1、最悪は死に至ることもあります。徹夜にわたるような仕事をさせていたとすれば会社の責任は免れることはできず、社会的非難をあびることになるでしょう。

 

企業には、労働者の健康を守る義務があります。その根拠は、労働安全衛生法および労働契約法における安全配慮義務です*2・3。企業は自社の労働者がどんな働き方をしているか、過重労働になっていないか、労働時間は適切であるかといった健康への配慮を行う必要があるのです。事実、判例でも企業の安全配慮義務の範囲について、労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めることは当然として、労働災害につながるような危険が発生するのを防止することも含まれるとしています*4

会社が黙認している場合

こうしたことを考えると、同僚の勤務態度を許容している会社にも責任があるといえます。前述の裁判では、過労死をした社員の疲労を上司は認識しており、休みを取るように伝えていましたが、業務調整はしていませんでした。実質的に負担を軽くする対応をしていなかった点も、企業責任が免れないとされた原因の一つです。

 

徹夜で仕事にのめり込めるほどやりがいを感じながら働く社員は、企業にとって宝物のような存在です。同僚を守るためにも、しっかりと休ませ、休息できるような体制が必要です。もし会社が黙認している場合は、内部通報制度を利用したり、外部の相談期間を活用することも一案です。

 

*1:厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト「睡眠と生活習慣病との深い関係」

 

*2:労働安全衛生法第3条第1項「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」

 

*3:労働契約法第5条「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」

 

*4:電通事件(最高裁第二小法廷判平成十二年三月二四日)

過労死自殺をした社員に対し、会社の安全配慮義務について責任を問うた最初の裁判といわれています。判決では、雇用する労働者の業務管理、業務遂行に伴う過労や心理的な負荷についても企業側に責任を負わせることを明示しています。

 

 

社会保険労務士

村井 真子

職場問題グレーゾーンのトリセツ

職場問題グレーゾーンのトリセツ

村井 真子

アルク

ちょっと聞きにくい75のモヤモヤ疑問をすっきり解決! 「知らなかった」で損をしない、働く人の必携書 日本社会はかつてない速度で変化し、多様な働き方が定着しつつあります。 でも、法律は現場の変化に追いついていませ…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧