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就業規則や労働時間、賃金、人間関係などで、「これってどうなんだろう?」という「職場の疑問」を感じたことはありませんか? 社会保険労務士である村井真子氏の著書『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)より一部抜粋して紹介する本連載。実際の現場で起こり得る企業の曖昧な状況について、疑問に答える形で社会保険労務士が分かりやすく解説します。

刑が確定するまでは「推定無罪」

Q:ストーカー行為で逮捕された同僚。本人は「免罪だ」と言ってますが……?

A:逮捕されただけで、 会社がただちに解雇することはできません。

 

多くの企業では、就業規則に「会社の信用を著しく傷つけたとき」という条項を懲戒対象として盛り込んでいます。しかし、逮捕という事実がこのような記載に含まれるかは、ケースごとに判断されるでしょう。

 

社員が犯罪行為で逮捕された場合、ほとんどの会社は家族や刑事弁護人からの通報でその事実を知ります。その後、会社は事実確認の調査を行うことになります。逮捕された本人または弁護人から聞き取りを行い、どんな罪状で逮捕されているのか、本人はその罪を認めているのか、引き続き就労する意思があるのかどうかといった点を中心に確認します。

 

判決によって刑が確定するまでは「推定無罪」として取り扱われるので、会社もすぐに解雇という結論ではなく、慎重な態度が求められます。

 

そもそも、私生活上のトラブルが原因であれば、基本的には会社が処分することはできません。まして相談のケースでは冤罪だと本人が申告しているので、なおさら解雇は不当と考えられます。なお、職業がドライバーで、飲酒運転での逮捕など職業との関連が強い場合は懲戒処分もありえます。

過去の裁判例では

過去の裁判例では、ストーカー行為により逮捕された社員への懲戒処分を認めています*1。しかし、この例では懲戒といっても休職処分が認められるにとどまっています。他の裁判例でも、痴漢行為などは比較的軽い処分が妥当とされることが多いです*2。ただし、強制わいせつ罪に該当するものは解雇処分も認められている*3ことから、犯罪の内容が悪質であるか、繰り返された行為であるか、行為者の社内における立場などを総合的に考えて処分することが求められているといえるでしょう。

 

なお、逮捕・勾留の期間は通常は就労できないので、その間の賃金や身分がどうなるかは本人へ説明する必要があります。いったん無給での休職扱いとするのが妥当かと考えますが、本人の意向を聞きつつ会社が明示することになるでしょう。

 

*1:X社事件(東京地判平成十九年四月二七日)

放送会社社員が番組制作に協力した未成年者らにストーカー行為をしたことに対して、会社が懲戒として休職処分にしました。判決では特権的な立場を利用して付きまとい行為をしたことが重く判断されました。

 

*2:東京メトロ事件(東京地判平成二七年十二月二五日)

駅係員が電車内で痴漢行為に及び、迷惑防止条例違反で逮捕されました。保釈後に諭旨解雇処分となりましたが、社会的に報道された事件ではなく、企業秩序に与える影響は少ないとして解雇は無効とされました。

 

*3:深夜ホテル室内わいせつ行為懲戒解雇事件(東京地判平成二二年十二月二七日)

取引先の女性社員二名に対し、わいせつ行為をした部長が懲戒解雇となりました。裁判ではこの処分を十分に合理性のあるものと判断しました。

 

 

村井 真子

社会保険労務士

職場問題グレーゾーンのトリセツ

職場問題グレーゾーンのトリセツ

村井 真子

アルク

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