(※写真はイメージです/PIXTA)

親が高齢の場合、親の資産状況を把握し「相続・贈与」について事前に話しておくことが大切です。しかし現実には「子に資産状況を教えたくない」「親にお金のことは聞きにくい」などと、さまざまな理由から資産状況を把握できていない家族も少なくありません。そこで今回、株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが、相続・贈与について対策していなかった親子の事例を交えながら、事前の対策方法を解説します。

甘やかされ、世間知らずのまま年を重ねてしまったAさんの悲劇

実家暮らしの67歳男性のAさん。家が資産家で、1人息子として甘やかされて育ってきました。

 

定職に就くことはなく、親のすねをかじりながら生きてきたAさんは世間の常識を知る機会もほとんどありませんでした。当然、資産運用などもまったくしてきておらず、自身の収入は国民年金のみです(月6万円)。

 

ある日、90歳になる父親の言動に違和感がありました。タクシーに乗って病院へ連れて行ったところ、認知症と診断されました。

 

Aさんは当初、母親とともに自宅での介護を試みましたが、母親の介護疲れが目に見えて酷くなっていったことから「お金もあるし、介護施設に入れてやろう」と考えを変え、諸々の費用を準備するため、父親の通帳と印鑑をもって銀行の窓口へ行きました。

 

地元の名士であるAさんの父親のことは、当然銀行も把握しています。その父親の通帳を持って現れた息子のAさんに「本日はどうされましたか?」と窓口担当の行員が対応しました。

 

Aさんは素直に「父が認知症と診断されたから介護施設へ入れるためにお金が必要なんだ。ついでに生活費もいるから、そうだな、200万円くらいおろすよ」と窓口の行員へ伝えたのです。

 

すると窓口の行員はカウンターの後ろにさがり、しばらくして上司らしき銀行員と一緒に戻ってきました。

 

上司「残念ですが、預金の引き出し対応はできかねます」

 

まさかの返答に、混乱するAさん。

 

口座名義人である父親本人が認知症の場合、口座が凍結されるということを知らなかったAさん。世間知らずのAさんは、事前の対策などなにもしていません。そのため、父親が銀行に預けている数千万円の普通預金・定期預金を、1円も引き出すことができなくなったのです。

 

Aさん「ちょっと待ってくれ……このままじゃ破産してしまう。なんとかしてくれよ!」 

 

Aさんの叫び声が支店に響きましたが、銀行にはどうすることもできません。結局、Aさんは力なく支店を後にしたのでした。

 

 

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