【景気先読みのヒント】大相撲秋場所、初日の懸賞実績「198本」にみる企業業績・広告費の“底堅さ”(エコノミストが解説)

景気の予告信号灯としての身近なデータ(2023年9月11日)

【景気先読みのヒント】大相撲秋場所、初日の懸賞実績「198本」にみる企業業績・広告費の“底堅さ”(エコノミストが解説)
(※画像はイメージです/PIXTA)

多くの国民が注目する「身近なデータ」が、実は景気や株価と深い関係にあることをご存じでしょうか。今回は、景気の予告信号灯として「大相撲懸賞本数」を中心に取り上げて見ていきましょう。企業の広告費の代理変数といえる大相撲懸賞本数に、この秋場所で大きな変化があったようです。※本記事は宅森昭吉氏(景気探検家・エコノミスト)の『note』を転載・再編集したものです。

秋場所の事前申し込み本数2,154本…コロナ前の水準を上回る

令和5年大相撲秋場所が、9月10日から24日まで、両国国技館で開催されています。横綱・照ノ富士、大関・霧島、大関・貴景勝、大関・豊昇龍の1横綱3大関の番付で、今年初場所と春場所の、横綱・照ノ富士、大関・貴景勝の1横綱・1大関で、照ノ富士が横綱大関を務めるという明治31年(1898年)春場所以来125年ぶりの異例の番付から、ほぼ正常化したと言えるでしょう。

 

但し、横綱・照ノ富士は腰の状況が思わしくないため休場となりました。しかし、新大関の豊昇龍が名古屋場所からの連覇を狙います。また、カド番大関の霧島、貴景勝の奮闘も期待されています。他に注目されるのが、父が元関脇琴ノ若(現・佐渡ヶ嶽親方)で親子二代の関脇となった新関脇・琴ノ若や、初土俵から所要103場所かけて史上3位のスロー出世となった新小結・錦木の活躍も見どころとされています。

 

この秋場所で、企業の広告費の代理変数といえる、大相撲の懸賞本数に大きな変化が生じました。秋場所の懸賞事前申し込み本数は2,154本で、秋場所の事前申し込み本数としては、コロナ禍前の令和元年秋場所の2,113本を上回りました。7月の名古屋場所の事前申し込み本数は1,600本で、コロナ禍前の令和元年名古屋場所の1,727本を下回っていたことと様変わりです。ちなみに、令和元年秋場所の実績は1,989本でした。

 

[図表1]最近の大相撲本場所懸賞本数推移

懸賞は1本7万円!懸賞本数に感じる企業業績・広告費の底堅さ

ここで、懸賞について説明しましょう。大相撲懸賞とは、幕内の希望の取組に対して企業や団体が賞金を提供するものです。個人で出すことはできません。懸賞を出すと、その日の大相撲会場入場者全員に配られる取組表に「提供者名(社名等を織り込んだ原稿)」が印刷され、取組直前には場内放送で読み上げられます。呼出しが、提供者のロゴやメッセージなどが印刷された、横70cm×縦120cmの懸賞旗を掲げ、土俵を回ります。懸賞金額は1本につき7万円、1場所(15日)15本105万円(税込)です。内訳は、勝ち力士獲得金額6万円内訳は手数料(取組表掲載料・場内放送料)1万円です。1日1本以上、1場所15本以上から申し込みできるということです。

 

今年の各場所の懸賞本数を振り返ってみましょう。初場所は、横綱。照ノ富士が休場しました。優勝は大関・貴景勝で、獲得した懸賞は453本でした。全体の懸賞本数は1,817本、前年同場所比+8.4%と10場所連続で増加となりました。コロナ禍で最高水準を更新し、コロナの影響がほぼなかった令和2年初場所の1,835本に接近しました。企業の業績・広告費の底堅さが感じられる数字と言えました。

 

3月に大阪で開催された春場所は、大関・貴景勝にとって綱取りがかかった場所でしたが、膝の怪我で3勝しただけで7日目から途中休場になってしまい、貴景勝が獲得した懸賞は79本にとどまりました。それでも懸賞獲得ランキングで第5位に入りました。優勝した関脇・霧馬山は120本で第2位、第1位は関脇・豊昇龍の145本でした。事前申し込みの懸賞本数は約1,600本でしたが、結果は1,404本にとどまり、前年同場所比▲6.0%と11場所ぶりの減少になってしまいました。3月は景気動向指数による機械的景気の基調判断が「足踏み」状態で、先行きで判断の下方修正も懸念されていた微妙な状況でした。

 

4月から景気動向指数の景気判断が「改善」に転じました。また、5月の月例経済報告で、政府の景気判断が、個人消費の持ち直しなどから「緩やかに回復している」に、4月の「一部に弱さがみられるものの、緩やかに持ち直している」から、10ヵ月ぶりに引き上げられました。

 

景気判断が上向く中、5月の夏場所の全体懸賞本数は1,789本で前年同場所比+10.1%と2場所ぶりの増加に転じました。千秋楽結びの一番の横綱・照ノ富士と大関・貴景勝の取り組みに60本の懸賞が掛かりました。過去最高は61本で平成27年初場所など5回、60本は6位タイで、今年夏場所は4回目の60本になったのです。

 

夏場所では膝の手術で3場所全休していた横綱・照ノ富士が1年ぶり8度目の復活優勝を果たしました。この優勝は史上3度目となる3場所連休の後の優勝、過去2回は昭和43年秋場所の横綱・大鵬の優勝と平成元年初場所の横綱・北勝海の優勝です。苦労して達成した復活優勝は、人々の気持ちを元気づけるのでしょう。前者は昭和45年7月の山まで1年10ヵ月間、後者は平成3年2月の山まで2年1ヵ月間と、その後2年間程度、景気拡張局面が続きました。3度目の今回も景気拡張局面継続中です。

 

7月開催の名古屋場所の懸賞本数は・事前申し込みは約1,600本で令和4年約1,500本を上回っていましたが、実績は1,388本で令和4年の実績1,428本を▲2.8%下回りました。前場所優勝の横綱照ノ富士が4日目から途中休場。入れ替わるように4日目から出場した新大関霧島も初日から3日間休場しました。朝乃山も途中4日間休場するなど、故障者も多く、予定の懸賞が掛からなかったことが影響したようです。

 

[図表2]令和5年名古屋場所までの大相撲本場所懸賞本数推移

初日の懸賞本数198本。一日の本数としては「過去最多」更新

令和5年秋場所での懸賞の事前申し込みで、力士別(「結び」や休場力士を除く、100本以上)のランキングは、①貴景勝151本、②霧島143本、③御嶽海118本、④豊昇龍116本。⑤琴ノ若106本、⑥朝乃山103本ということです。

 

このランキング・ベスト6の6人に懸かった秋場所初日の懸賞が、当日のベスト6になりました。貴景勝は北勝富士に敗れましたが、他の5人は白星で懸賞を獲得しました。1位の霧島は54本で、昨年秋場所初日で一番多かった照ノ富士の37本を上回りました。ベスト6の懸賞本数合計は今年146本、昨年の111本より31.5%増加しました。

 

初日全体の懸賞本数は198本で、一日の本数でこれまで最多だった今年の5月千秋楽の190本を上回りました。秋場所実績の前年同場所比増加に向け好調なスタートを切りました。人気力士が休場することなく、最後まで出場してくれることを期待したいところです。

 

出所
[図表3]大相撲秋場所初日懸賞獲得ベスト6
 

今年は両国国技館開催場所の懸賞本数は前年同場所比プラス、地方場所ではマイナスになっています。企業の広告費動向やその背後の景気動向の予告信号灯として、秋場所実績の前年同場所比の伸び率がどうか注目されます。また、地方の企業が広告費を出す力がどうなのか、11月の九州場所の懸賞本数の動向も注目されるところです。

 

※本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

 

 

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。 さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。 23年4月からフリー。景気探検家として活動。 現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

 

 

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