【富裕層専門FPの相談事例】年商1億円の建築事務所、事業は順調だが…“師匠”の会社を継いだ54歳・新社長が頭を抱えた、先代からの〈まさかのリクエスト〉

【富裕層専門FPの相談事例】年商1億円の建築事務所、事業は順調だが…“師匠”の会社を継いだ54歳・新社長が頭を抱えた、先代からの〈まさかのリクエスト〉
(写真はイメージです/PIXTA)

今回の相談者は、およそ30年前、弟子入り同然で入社した建築事務所の後継社長に指名された54歳のA氏。事業は順調に継続していますが、先代社長との間に少々の問題が発生し、頭を悩ませています。本稿では株式会社FPイノベーションの代表取締役・奥田雅也氏が、「親族外承継」をした後継社長に求められる姿勢について解説します。

選択肢はいくつかあるが…カギは新社長の「意思」

話を聞きながら、筆者のなかではいろいろな解決法のイメージが浮かんでいました。しかし敢えてそれらを一切説明せずに、状況をすべてヒアリングした上で、A氏にこう質問しました。

 

「ところで、Aさんはどうしたいのですか?」

 

意表を突かれた様子のA氏は、筆者の質問の真意が理解できず「どうしたいというのは?」と質問を返してきました。

 

筆者はさらに、「Aさんのお悩みと問題は理解できました。そして、それらに対しては幾つかの解決策があることもイメージができています。ですが、一番重要なのはAさんが今後、どうされたいか? という点です。その方向性によって、採るべき選択肢が変わるということです」と伝え、いくつかの選択肢があることを説明しました。

 

まずは、「自社株を買い取る」というもの。

 

現状、同社はB氏が株式を100%持つ「オーナー」であり、A氏は代表取締役という肩書はあれど、実質的にはオーナーから委任された「雇われ社長」に過ぎません。A氏に、会社を引き継いで「自身で経営していく」という強い覚悟があるならば、自社株をすべて買い取って自身の会社として経営を行うべきだといえます。

 

また、自己資産で株式を買い取る考えがないのであれば、「雇われ社長」を継続するというのも、立派な選択肢といえます。

 

このほか、A氏が自社株を買い取らなければB氏がオーナーとして存在し続け、経営に関与する余地を残すことになる訳ですから、買い取り資金で別会社を作って独立するという選択肢もあると思います。もちろんこの方法は、長年お世話になったB氏に対する道義的な問題がない訳ではありませんが、選択肢の1つにはなるでしょう。

 

上記のように、「Aさんの思惑によって取るべき手法や対策が変わりますので、Aさんの真意を聞かせてほしいのです」と、できるだけ言葉を選びながら説明しました。

 

筆者の話をずっと腕組みをしながら聞いていたA氏は一通り説明を聞いた後、昔を回想しながら、次のように語り、考え込んでしまいました。

 

「私は25歳でBさんに弟子入り同然でこの事務所へ来ましたが、それ以降、自分で何かを考えて意思決定をするというよりも、Bさんに言われるがままにやってきました。そして今回もBさんに言われた通り対処しようと思っていましたが、あまりにも金額が大きすぎるので困り果てていたのです。いまの説明を聞いて、自分でしっかりと方向性を決める必要があることを認識しました」

 

場の雰囲気が少し気まずくなったので、筆者は「一応、Aさんが検討される際に役に立つかもしれないので」と断りを入れ、それぞれの選択肢について詳細を説明。するとA氏は、「いろいろな方法があるんですね。『私の意思決定で手段が変わる』という意味が理解できました。退職金と自社株という重たい問題を突きつけられて気持ちはさらに重くなりましたが、問題の本質がわかって良かったです」と話しました。

 

最後に筆者から「くどいようですが、覚悟が決まっていない時点で手法を検討しても意味がありません。もちろん覚悟を決めないという選択肢もありますし、どれが正解・不正解ということはありません。すべてはAさん次第ですので、なにかあればまた相談しにきてください」と伝えました。

 

「親族外承継」に伴う、新社長の決断。もともと予定していなかった先代社長への退職金支給や数千万円という金額の自社株買い……本件では事業承継の難しさを改めて感じたものの、同社の場合は事業も問題なく継続し、後継者が決まっているだけ、良い事例であることはたしかです。

 

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