2代目院長「誰か、継いでくれる人はいますかね?」
人口4万人弱の某地方都市で開業されているA院長(67歳)から、「医療法人の第三者への承継について相談がしたい」との依頼を受け、クリニックを訪問しました。大阪から飛行機とレンタカーを乗り継いで到着すると、そこにはのどかな地方の風景にはあまりなじまない立派な建物があり、少しビックリしました。
A院長から指定された時間は午前診終了時間でした。ただ、到着してクリニックの様子をうかがうと患者がいる気配がなかったので、終了時間より少し前に受付を行い、院長とアポイントがある旨を伝え、待合室で待機することに。ほどなくしてスタッフから声がかかり診察室へ入ると、年齢の割には少し老けた印象のA院長が座っていました。
A院長は、非常に苦々しい表情をしながら「非常にお恥ずかしい相談なんですが……」と、筆者へ相談依頼をした経緯を語り始めました。
このクリニックを開業したのはA院長の父であり、A院長は2代目。地方都市で親子2代にわたって続くクリニックですから、地元で長年頼りにされてきたことはすぐ分かりました。
A院長の2人の子どものうち、長男は医師とのこと。大変な苦労の末に長男の医学部進学が決まったとき、将来このクリニックを継いでもらうことを期待して有床診療所のクリニックへの建て替えを行ったといいます。
しかし、医学部を卒業した長男は「もう少し修行がしたい」といい、都心の病院へ勤めることになりました。数年が経過した後にA院長が長男へクリニックを継いでほしい旨を伝えると、長男は継ぐ意思はまったくないと承継を拒否します。
A院長の必死の説得も実らず、長男は「責任の重い開業医にはなりたくない」とキッパリ。この頃からA院長の体調は優れず、検査の結果パーキンソン病との診断を受け、長男の説得をあきらめることにしたといいます。同時に、代々続いた地域医療への熱意も冷めてしまい、第三者への承継を検討し始めます。
そして、第三者への承継をするために、保有していた病床は近くの病院へ売却し、現在は立派な建物の1階の一部分だけを使って無床診療所として診療を行っているとのことでした。
医療法人の第三者への承継を決意するに至るまでの経緯を一気に話したA院長は、抱えていた苦しい想いを吐き出して少しホッとしたような表情をみせ、「誰か継いでくれる人はいますかね?」と筆者に尋ねました。