相続した賃貸アパート、住宅ローンの返済に使えると思いきや…
生徒:先生、先日、亡くなった父が経営していた賃貸アパートを相続したのですが、問題が発覚しまして…。
先生:どうされましたか?
生徒:賃貸アパートは、家賃収入を自宅マンションの住宅ローン返済に充てられると考えてホクホクしていたのですが、収入が増えるどころか、逆に支出が増えてしまうことがわかったのです。
先生:それは大変ですね! ご家族といまの収入と生活について、くわしく教えていただけますか?
生徒:私は40歳で、都内の上場企業に勤務しています。年収は約800万円です。家族は妻と7歳の娘の3人で、中野区のマンションで暮らしています。マンションは35歳のときに購入し、35年ローンを組みました。毎月10万円の返済が70歳まで続きます。
先生:35年ローンにされたんですね!
生徒:はい。ローン返済を70歳までにしたのは、勤めている会社の「定年延長」があったからです。会社の定年が60歳から65歳に延び、さらに70歳まで再雇用されることが可能となったんです。それで「どうせ70歳まで働くのであれば、長期でローンを返しながら、子どもの教育費や夫婦の老後資金を無理なく貯めていこうと考えて、35年ローンを選択しました。
先生:なるほど。毎月10万円なら、無理なく返済できそうですね。
築古・立地に難あり・空室あり→「厳しいですねぇ…」
先生:ところで、今回の相続ですが、相続人はどなたになりますか?
生徒:私はひとりっ子なので、母と私の2人です。68歳の母は実家に1人で住んでいます。
先生:相続財産の種類と、どのように分割されたのかを教えてください。
生徒:父は資産家で、不動産として自宅と賃貸アパートのほか、現預金、有価証券、絵画・骨董品も所有していました。母は自宅と絵画・骨董品、老後資金にするための有価証券を相続しました。私は、木造2階建て、築40年の賃貸アパートと現預金を相続しました。
先生:なるほど。
生徒:母は「配偶者の税額軽減」の特例を適用したため相続税がゼロになりましたが、私は相続税がかかったため、現預金をすべて納税に充てたのです。最終的に私の手元に残った相続財産は、賃貸アパートの土地と建物のみでした。でも「アパートの家賃収入で住宅ローンも返済できるだろうし、資産形成も可能だろう」と楽観的に考えていたのです…。
先生:そうでしたか。賃貸経営はどのような状況ですか?
生徒:それが…。父の預金残高がほとんど増えていなかったことから、不動産管理会社に尋ねたら、全10室あるうちの6室しか入居しておらず、残り4室が空室になっているとのことでした。それに、この賃貸アパートが建っているエリアは、駅から徒歩20分で、新築でもなかなか入居者が決まりにくいところなんです。
先生:それでは厳しいですねぇ…。
「家賃値下げ+リノベ」で応急処置より、いっそ売却のほうが…
生徒:不動産管理会社に相談したところ、手っ取り早く入居者を見つけて空室を埋めるには、家賃を下げるか、部屋のリノベーションを行うしかないというのです。畳をフローリングにしたり、各部屋にケーブルテレビ回線を設置したりするなど、思い切った修繕や改良が必要なんだそうです。そのためにはまとまったお金がかかるので、私の自己資金を使わなければいけません。
先生:賃貸アパート経営に必要な経費は、一般的に家賃収入で賄うべきだとされています。そうすれば、家計を圧迫することはありませんからね。築古になり修繕をするなら、事前にお金を積み立てておかなければいけません。しかし、そのお金がないなら、実質的に負債を引き継いだようなものですよ?
生徒:そうですよね…。家賃収入を住宅ローンの返済に回すどころか、私の貯蓄が食いつぶされて、家計が破綻しそうなんです…!
先生:それなら、賃貸アパート経営は止めたほうがいいでしょう。思い切って解体し、更地にして売却してはいかがでしょうか。いまの立地では賃貸経営は苦しいかもしれませんが、建売分譲住宅としてなら売れるかもしれません。現在の入居者には立退き料を支払うことになりますが…。
生徒:やはり、売ったほうがいいのでしょうか?
先生:アパートの土地を売却すれば、その代金でご自宅マンションの住宅ローンを繰上げ返済することができますよ。返済せずに、NISA等を活用して資産運用してもいいでしょう。住宅ローン金利よりも投資信託の利回りのほうが高いですから、無理して住宅ローンを返済する必要はありません。
生徒:そういう方法もありますね。改めて検討します。ありがとうございました。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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