遺産の分け方は様々だが…一番スムーズなのは「生前に現金化」
相続においては、多くの場合、相続人は複数人です。配偶者が健在で子供達がいる場合は、そのメンバーで相続することになります。相続人の間で遺産を分けるときには、以下の4つの方法が考えられます。
1. 現物分割…たとえば「自宅は姉、預金は弟」のように現物のまま分ける。
2. 換価分割…相続財産を売却し現金を分ける。
3. 代償分割…一人が自宅などの現物を全て相続し、他の相続人には代償金を渡す。
4. 共有分割…財産の一部、または全部を相続人全員で共同で所有する。
しかし、これらはいずれも一長一短です。不動産、株、宝飾品など、現金以外の財産はタイミングによって評価が変わるため価値判断が難しく平等に分けることは実に困難です。さらに相続権がない子供達の配偶者の思惑まで絡んでくることもあり、そうなると事態は混迷を深めるばかりです。どれを選んだとしても、相続人の間でトラブルが発生する可能性を完全に排除することはできません。
こうしたトラブルを回避する一番の方法は、生きているうちに財産を現金化しておくことです。現金であれば法定相続分に則って不公平感なくスムーズに分割できます。
相続財産の「分け方」を決めるときは「遺留分」に注意
◆「遺言書」を作成しても法定相続人の「遺留分」は取り上げられない
相続財産について、誰にいくら遺すかを決めるには「遺言書」を作成する必要があります。
法定相続人でなくても、たとえば、熱心に介護をしてくれた次男の嫁、お気に入りの孫、ピンチに助けてくれた友人など、法定相続人ではない人に遺産を遺したいという場合もあるかもしれません。その場合には、遺言書にその旨を記すことが必要です。遺言書がなければ法律上、一銭も遺すことができません。
また、法定相続人のなかには、遺産を遺したくない人がいるかもしれません。たとえば、「出て行ったきり音沙汰がない長男」と「同居している長女」がいたとします。長男より長女の方に遺産を多く遺したいのは人情でしょう。とはいうものの遺言書に「長男には遺産は渡さない」と明記しても、残念ながらそれは認められません。
なぜなら、亡くなった人の配偶者、子供や孫(直系卑属)、親や祖父母(直系尊属)には「遺留分」が認められているからです。遺留分とは、遺産から受け取ることが保障された最低限の取得分のことをいいます。遺言であっても遺留分まで取り上げることはできないのです。
何十年も顔も見ていなくても、子供であれば法定相続人であることは紛れもない事実。相続の権利は絶大です。
ちなみに、兄弟姉妹、甥姪は法定相続人ではありますが、遺留分は認められていません。
◆遺留分の割合は?
遺留分の割合は、被相続人と相続人との関係によって異なります([図表]参照)。相続人が「配偶者」と「子供2人」のケースで考えましょう。
・配偶者の法定相続分「2分の1」→遺留分はその半分の「4分の1」
・子供の法定相続分は「2分の1」→2人兄弟なので2で割ると1人あたり「4分の1」
→遺留分はその半分の「8分の1」
前述の例では、長男が自分の遺留分が守られていないと感じたら、「遺留分の権利を侵害した相手」である長女に対して「遺留分侵害額請求」が可能です。
当事者間で決着がつかなければ家庭裁判所での調停手続きへと進むことになり、侵害が認められれば長女は長男にお金を支払わなくてはいけません。「長女にたくさん相続させたい」という気持ちが仇になってしまうのです。
それを避けるためには、あらかじめ遺言書を作成し、長男の遺留分を侵害しない限度で、長女の相続分を多く指定しておくしかありません。
関根 俊輔
税理士法人ゼニックス・コンサルティング
税理士
関根 圭一
社会保険労務士・行政書士
大曽根 佑一
司法書士・行政書士