老人ホーム入居によって「住居」と認められない…
平成23年8月26日判決
【小規模宅地/居住用宅地/有料老人ホームに入居した被相続人の生活の拠点】
Z261-11736
(以下、一部抜粋)
第3 当裁判所の判断
1 争点(本件宅地が、本件相続の開始の直前において、本件特例に規定する被相続人等の「居住の用に供されていた宅地」に当たるか否か)について
(中略)
(2)本件家屋敷地について
ア 本件特例は、被相続人等(被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族)の居住の用に供されていた小規模な宅地等については、一般に、それが相続人等の生活基盤の維持のために欠くことのできないものであって、相続人において居住の用を廃してこれを処分することについて相当の制約を受けるのが通常であることから、相続税の課税価格に算入すべき価額を計算する上において、政策的な観点から一定の減額をすることとした規定であると解される。
そして、ある土地が本件特例に規定する被相続人等の「居住の用に供されていた宅地」に当たるか否かは、被相続人等が、当該土地を敷地とする建物に生活の拠点を置いていたかどうかにより判断すべきであり、具体的には、
①その者の日常生活の状況
②その建物への入居の目的
③その建物の構造及び設備の状況
④生活の拠点となるべき他の建物の有無
その他の事実を総合考慮して判断すべきものと解するのが相当である。
入居前に住んでいた家が「生活の本拠地」にならなかった理由
イ これを本件についてみるに、前提事実及び弁論の全趣旨によれば、
①亡乙らは、本件老人ホームに入居した平成17年4月16日から本件相続の開始の日である平成18年12月9日までの約1年8か月の間、亡乙が入院のために外泊をしたほかに外泊をしたことはなく、専ら本件老人ホーム内で日常生活を送っていたこと(前提事実(2)カ、キ)、
②亡乙らは、平成17年2月以降、両名ともに介護を必要とする状況となったところ、本件家屋において原告及び訴外丁の介護を受けて生活することが困難であったことから、終身利用権を取得した上で本件老人ホームに入所したもので、
その健康状態が早期に改善する見込みがあったわけではなく、また、本件家屋において原告等の介護を受けて生活をすることが早期に可能となる見込みがあったわけでもなかったのであって、少なくとも相当の期間にわたって生活することを目的として本件老人ホームに入居したものであること
(前提事実(2)エ、別紙3「本件入園契約(要旨)」記載1、2、4)
及び
③本件老人ホームには、浴室や一時介護室、食堂等の共用施設が備わっており、本件居室には、ベッドやエアコン、トイレ等の日常生活に必要な設備が備え付けられていた上、亡乙らは、本件老人ホーム内において、協力医療機関の往診を受け、あるいは、介護保険法等の関係法令に従い、入浴、排せつ、食事等の介護、その他の日常生活上の介助、機能訓練及び療養上の介助を受けることができたもので、本件老人ホームには、亡乙らが生活の拠点として日常生活を送るのに必要な設備等が整えられていたこと(※下線筆者)(前提事実(2)エ、同別紙記載4、5、7)が各認められる。
以上からすれば、
④亡乙らが、本件老人ホームに入居した後も、本件家屋に家財道具を置いたまま、これを空家として維持しており、電気及び水道の契約も継続していたこと(前提事実(2)ク)を考慮しても、(※下線筆者)本件相続の開始の直前における亡乙らの生活の拠点が本件老人ホームにあったことは明らかというほかない。
ウ 以上のとおり、本件相続の開始の直前において、亡乙らの生活の拠点が本件家屋にあったと認めることはできないから、本件家屋敷地が本件特例に規定する被相続人等の「居住の用に供されていた宅地」に当たるということはできない。
したがって、本件家屋敷地について、本件特例を適用することはできない。
(証拠)居住の実態・前問と同様、社会通念=常識=経験則からでの実態判断がなされます。水道光熱費の使用状況や家財の有無等々で確認されることも同様になります。
伊藤 俊一
税理士
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