再エネ子会社活用した豊通
陸上風力発電向けの大型蓄電池システムにかかわるのは豊田通商だ。子会社のユーラスエナジーホールディングスが出資する特別目的会社が今年5月、北海道で陸上風力の送電網に蓄電池(720メガワット時)を設置した。
ユーラスは、風力発電事業者として国内最大のシェアを持つ。豊田通商はトヨタ自動車のグループ会社で、一般には「クルマの商社」のイメージも強い。しかし、実はユーラスという再エネ子会社を虎の子に持つ。ユーラスの源流は、豊田通商が吸収合併した総合商社・トーメンにある。ユーラスは1986年、トーメンの電力事業としてスタートした。
ユーラスは、北海道の道北地区で540メガワット(原発2分の1基程度に相当)陸上風力発電所の建設にかかわる。ただ、北海道では送電網の整備が不十分であることから、せっかく風力由来の電気を作っても、供給過剰で送れないリスクもある。そこで、電力網に大型蓄電池を組み込むことで、作った電気を一時的に貯め、送電網へ適正な量の電気を送る機能を持たせる。
豊田通商も、伊藤忠や住友商事同様、得意分野から蓄電池事業をスタートしている。蓄電池を設置することが、自社の再エネ機会損失を回避できる。ひいては社会全体の再エネ普及につながる。
SDGsは社会貢献であり、企業にとって収益性は二の次なのでは、という見解もあるかもしれない。しかし、今日のリユースや再エネの促進を前提とした産業構造では、蓄電池はおのずと収益をもたらすビジネスに育ちつつある。
原料調達にも細心の注意
蓄電池ビジネスには懸案もある。主原料のリチウム生産過程での環境負荷だ。生産方法は、リチウム分を含んだ湖のかんすいを精製する手法と、鉱石を採掘して精製する手法がある。かん水の精製では大量の水を使うことから、農業用水や生活用水の不足が懸念される。また、かん水や鉱石精製の過程では硫酸ナトリウムなどの残留物が発生する。それらを処理する際に水質や土壌が汚染される危険が指摘されている。
総合商社は米著名投資家・ウォーレン・バフェット氏が大量保有したことから、4月以降の日本株高をけん引した。海外の機関投資家から関心が高まる中、今後、蓄電池のビジネス自体だけではなく、調達先での環境負荷にも細心の注意、情報公開が必要になる。
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種市 房子 (たねいち・ふさこ)
1975年生まれ。98年から毎日新聞、同社傘下の週刊エコノミストで記者・編集者として勤務。2023年4月に独立後は仕事探し、自分探しの毎日。