ベストな策ではない…「農地を売って」生じる問題
しかしここで、税務などに関する問題が浮上します。農地売却では、譲渡所得が生じると税金が発生することに加え、売却には農地法に基づく許可も必要となるため、ベストな策とはいえません。
もちろん、農業を継ぐこと自体はアリでしょう。後継者不足に悩む業界であるので、農林水産省は令和3年度予算から新たに「経営継承・発展等支援事業」を措置し、継承後の経営発展計画に必要となる経費を市町村と一体となって支援することを開始しています。
代々受け継がれてきた農業と家を守ることにも価値があるはずです。
「夢のマイホームだったので、悔しい思いはあります」
さて、Aさんたちは家と移住についてどう決断したのでしょうか。次のように語ってくれました。
「結局、移住を決めました。代々営んできた農業を、自分の代で潰すのは忍びなく……。他に継げるような親戚もいないので。家はなんとか売ることができましたが、住宅ローンと相殺の値段で、プラスは出ませんでした。設計から携わった『夢のマイホーム』だったので、正直、悔しい思いはあります」
マイホームの売却では、購入時より高い値段で売れることもありますが、日本の場合「経年劣化」の考えが根強く、築年数とともに価値が下がることがほとんどです。
「不動産のプロ」であり、多くの現場に立ち会ってきた牧野知弘氏は、書籍『不動産で知る日本のこれから』の中で「持ち家」のリスクを指摘しています。
“長期の住宅ローンを組んでまでも家を買いたい人は、その家が「絶対に欲しい」、そしてそのためのお金なら「どんな苦労をしてもかまわない」、と断言できる場合に限るべきだ。”
“大博打である家の「購入」に拘らずに、生活するためのコストとして家賃を喜んで払うほうが、はるかにリスクの少ない生き方ができるというものだ。”(牧野知弘『不動産で知る日本のこれから』祥伝社/2020年3月)
もちろん、住宅購入のリスクは人それぞれ、「資産」として所有したほうがよい方もいるでしょう。しかし実家を継ぐ可能性のあったAさんのように、かなり高いリスクを持つ方もいます。
生活と家計の大きな部分を占める住居。賃貸と持ち家それぞれのデメリットを、きちんと考慮した上で選ぶことが求められています。
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