(※写真はイメージです/PIXTA)

誹謗中傷は法的に問題のある行為であることも多く、刑事責任を問われたり損害賠償請求をされたりする可能性があることは、認知されつつあるでしょう。では、誹謗中傷をする意図ではなく批判をする意図であれば、法的に問題となることはないのでしょうか? 本記事では、「誹謗中傷」と「批判」のボーダーラインについて、Authense法律事務所の弁護士が解説します。

「誹謗中傷」と「批判」の違い

「誹謗中傷」と「批判」とは、どのように異なるのでしょうか。はじめに、広辞苑でどのように解説されているのか、それぞれの意味を見ていきましょう。

 

誹謗中傷とは?

「誹謗中傷」とは、「根拠のない悪口を言って相手を傷つけること」とされています。一般的なイメージと、さほど違いはないでしょう。

 

批判とは?

「批判」とは、次のことを指すとされています。

 

・物事の真偽や善悪を批評し判定すること。ひばん。

・人物・行為・判断・学説・作品などの価値・能力・正当性・妥当性などを評価すること。否定的内容のものをいう場合が多い。哲学では、特に認識能力の吟味を意味することがある。

 

批判というと、よくない点を指摘するというイメージが強いかもしれません。しかし、本来はこのように、悪い点だけでなくよい点も含めて評価したり判定したりすることを批判といいます。

 

誹謗中傷ではなく「批判」なら法的責任は問われない?

書き込みの意図が「誹謗中傷」ではなく「批判」であれば、法的責任は追及されないのでしょうか? 結論をお伝えすると、批判であるからといって、必ずしも法的責任に問われないわけではありません。

 

そもそも、法的責任を追及できるか否かは、誹謗中傷なのか批判なのかによって決まるものではなく、書き込みの内容や状況などから、個別に、人の権利を侵害しているといえるかどうかにより判断されます。そのため、誹謗中傷であるか批判であるかにかかわらず、その内容や態様が次で紹介する罪などに該当するのであれば、法的措置の対象となります。

誹謗中傷や批判で問われる可能性のある法的措置

誹謗中傷や批判はどのような法的措置の対象となるのでしょうか? 主なものは次のとおりです。

 

1.刑事上の責任

法的措置の1つ目は、刑事上の責任追及です。刑事上の責任を平たくいえば、罰金や懲役など刑事罰の対象となったりすることを指します。誹謗中傷や批判が刑法上の罪に該当する場合には、多くの場合相手の身元を特定したうえで、警察に対して刑事告訴を行います(※相手の身元を特定できていなければ刑事告訴ができないということではありません)。

 

刑事告訴とは、犯罪行為があったことを被害者が警察などに申告し、犯罪者の処罰を求める意思表示です。告訴が受理されれば、警察で捜査が行われ、場合によっては逮捕されます。その後、検察に事件が送致され、起訴か不起訴かが決まります。起訴されると略式起訴である場合を除き刑事裁判が開始され、そこで有罪か無罪か、有罪の場合には刑罰の内容と執行猶予の有無などが決定されるという流れです。

 

誹謗中傷や批判が該当する可能性のある主な罪には、次のものなどが存在します。

 

・名誉毀損罪

・侮辱罪

・脅迫罪

・信用毀損罪/偽計業務妨害罪

 

■名誉毀損罪

名誉毀損罪とは、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」が、「その事実の有無にかかわらず」該当する罪です(刑法230条)。「公然と」が要件とされているため、1対1の個室で行われた発言や、他者が見ることのない個別のメッセージなどでなされた言動は、原則としてこの罪には該当しません。

 

また、「事実を摘示」したことが成立要件となっており、抽象的な批判や悪口は名誉毀損罪の対象外です。ただし、「その事実の有無にかかわらず」とされているため、真実であっても事実無根の内容であっても名誉毀損罪は成立し得ます。さらに、「人の名誉を毀損」したことが必要です。そのため、言動の対象者が主観的に傷付いたとしても、社会的評価が低下したと判断されなければ、名誉毀損罪は成立しません。名誉毀損罪を犯した者は、次のいずれかの刑罰に処されます。

 

・3年以下の懲役もしくは禁錮

・50万円以下の罰金

 

なお、名誉毀損罪には、「違法性阻却事由」が存在します。違法性阻却事由とは、これに該当したら、罪に問えないという要件のことです。問題となっている言動が次の要件をすべて満たす場合には、名誉毀損罪で相手を罰することはできません(同230条の2)。

 

・公共の利害に関する事実に係るものであること

・その目的が専ら公益を図ることにあったと認められること

・事実の真否を判断し、真実であることの証明があったこと

 

代表的なものとしては、政治家が汚職をしたとの報道などでしょう。この違法性阻却事由が定められていなかったとすると、新聞や雑誌などの記事の多くが名誉毀損罪に該当してしまいます。

 

■侮辱罪

侮辱罪とは、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱」した場合に該当する罪です(同231条)。名誉毀損罪と似ていますが、事実の摘示は不要とされており、抽象的な誹謗中傷であっても該当する可能性があります。侮辱罪を犯した者は、次のいずれかの刑罰に処されます。

 

・1年以下の懲役もしくは禁錮

・30万円以下の罰金

・拘留

・科料

 

なお、侮辱罪の刑罰は、令和4年(2022年)7月6日まで「拘留または科料」のみとされていました。しかし、SNS上で誹謗中傷をされたプロレスラーの女性が自ら命を絶った事件を受け、刑罰が軽すぎるとの批判が生じたことから、厳罰化に至っています。

 

■脅迫罪

脅迫罪とは、相手や親族の「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫」した場合に該当する罪です(同222条)。脅迫罪を犯した者は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。こちらは、名誉毀損罪や侮辱罪とは異なり、「公然と」行うことは要件とされていません。そのため、個別のメッセージなど他者の目に触れない場での言動であっても、対象となる可能性があります。

 

■信用毀損罪・偽計業務妨害罪

信用毀損罪や偽計業務妨害罪とは、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害」した場合に該当する罪です(同233条)。たとえば、嘘の口コミを書くなどしてお店や会社の評判を下げたり業務を妨害したりした場合には、これに該当する可能性が高いでしょう。

 

また、コロナ禍においては、「自分はコロナだ」などと嘘をつき出向いた先の施設に消毒の負担を負わせ、偽計業務妨害罪などで逮捕されるケースが頻発したことも記憶に新しいかもしれません。信用毀損罪や偽計業務妨害罪を犯した者は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。

 

2.民事上の責任

法的措置の2つ目は、民事上の責任追及としての損害賠償請求です。損害賠償請求とは、相手の行為によって被った損害を、金銭で賠償させる請求を指します。刑事上の責任追及とは異なり、損害賠償請求には警察や検察は関与しません。

 

また、損害賠償請求が認められても相手の刑事責任まで当然に認められるわけでもありませんので、混同しないよう注意しましょう。誹謗中傷や過度な批判に対して損害賠償請求をするためには、まずは発信者情報開示請求などを行って相手を特定しなければなりません。その後、判明した相手に対して、損害賠償請求を行います。

 

しかし、損害賠償請求をしたところで、相手が請求を無視するなどして任意に支払わない場合もあるでしょう。また、相手から減額を請求され、金額の交渉がまとまらない場合もあります。このような場合には、裁判上で損害賠償を請求する必要があります。裁判では、裁判所が損害賠償請求の可否や金額を決定し、相手はこれにより決められた金額を支払わなければなりません。

 

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