「会社員の夫+専業主婦」=年金月額23万円
生徒:先日、うちの主人が65歳で会社を退職しました。私たち夫婦には子どもがいませんので、これからは夫婦でのんびりと生活したいと思います。ねんきん定期便も見ていて、だいたいの老後資金はイメージできるのですが、実際、私たちの老後生活は大丈夫なのでしょうか。介護や医療費で老後資金が不足してしまうことはないでしょうか。
先生:60代の皆さんの多くが、老後資金のことを心配されています。ご主人が会社員として働いてこられ、奥様が専業主婦だったなら、受給できる年金は、ご主人が月16万円くらい、奥様の国民年金が月6万円ですから、ご夫婦2人合わせて月22万円~23万円くらいですね。
生徒:うちの主人は中小企業であまり給料が高くなかったため、厚生年金が少ないかもしれません。月16万円というのは、いくらぐらいの年収が該当しますか?
先生:一般的に、会社員の平均給与は月34万円、年収では550万円くらいだと言われています。20~60歳までの40年間、この平均給与をもらっていた場合、厚生年金部分は10万円、国民年金が満額6万円支給だとすれば、合わせて月16万円くらいになりますね。
生徒:なるほど、うちの場合、おそらく平均給与としては年収500万円くらいでしたから、16万円よりも少ないかもしれません。
先生:そうかもしれませんね。あと、税金や社会保険料で、年金の10%から15%が天引きされますので、手取りはもっと少なくなります。この点は要注意です。
生徒:そうなんですね! 年金から税金や社会保険料が取られるとは知りませんでした…。主人も私も今後働くつもりはありませんから、家計は赤字続きになりそうです。毎月の生活費を25万円くらいだと想定すると、主人が生きている間は預金を取り崩せばなんとかなりそうですが、主人が先立つと生活が苦しくなりますね…。
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夫を亡くした妻は、年金額に注意が必要
先生:もうひとつ、注意していただきたいことがあります。それは、配偶者の1人が亡くなったとき、年金が減額されることです。たとえば、70歳の高齢者夫婦の場合、万一奥様が亡くなれば、ご主人はご自身の年金だけとなります。つまり月16万円です。
生徒:月16万円ですか。1人暮らしで寂しくはなると思いますが、生活はなんとかできそうですね。もっとも、急な医療費の出費などがあれば、苦しくなりそうですが…。
先生:問題は、ご主人のほうが先に亡くなった場合なんです。奥様は、国民年金のほか、遺族厚生年金として、ご主人が受け取っていた厚生年金の報酬比例部分の4分の3を受け取ることができます。簡単に計算しますと、奥様が受け取ることができる年金は月14万円くらいになります。
生徒:夫が先に他界すると、妻の年金はガクッと減らされるということですか!
先生:そうです。配偶者を亡くしたあとの年金は、専業主婦の妻のほうが厳しいのです。そうはいっても、東京都では、生活保護の最低生活費の支給を受けることができます。生活扶助が約7万円、住宅扶助が約5万円です。どんなに生活が苦しくなっても、社会保障で守られていると考えておきましょう。
生徒:そうなのですね。しかし、家賃が5万円というのは厳しいですね…。いまは賃貸マンションに住んでいますが、主人が他界したあとは、小さなアパートに引っ越そうと思っています。
先生:賃貸住宅へ入居するには、連帯保証人が必要です。入居時、保証人になってくれる親族が見つからなければ、入居は難しくなります。賃貸アパートのオーナーは、孤独死のリスクを懸念して「高齢者のおひとり人様」との賃貸契約を敬遠します。契約ができなければ、地方の田舎に移住するか、URの賃貸住宅に入るしかないでしょう。
「自営業の夫+専業主婦」の場合は、さらに深刻
生徒:もうひとつ教えてください。私の妹も子どもがなく、夫と2人暮らしをしています。夫は自営業でWebデザイナーをしていましたが、妹は病気がちなため、ずっと専業主婦です。妹夫婦の場合も、年金は月22万円くらいなのでしょうか?
先生:いいえ。「自営業の夫+専業主婦」の場合は、会社員の夫のケースとは計算が違います。この場合のご夫婦の年金は、それぞれの国民年金が満額支給されるとしても月12万円に過ぎません。しかも、ご主人が亡くなったあと、「遺族基礎年金」はもらえません。つまり、ご主人亡きあとの妹さんの年金は、月6万円です。ここが、夫が会社員の妻と大きく違うところです。
生徒:6万円!? それでは生きていけないではないですか。なにかの間違いでは…。
先生:いいえ。間違いではありません。
生徒:私は「遺族厚生年金」をもらえるのに、自営業者の妻である妹が「遺族基礎年金」をもらえないのはなぜでしょう? 本当に人生の危機ですよ。
先生:遺族基礎年金の受給対象者は、原則として、18歳未満の子のある配偶者、または18歳未満の子どもです。妹さんには18歳未満のお子さんがいないので、遺族基礎年金はもらえません。夫が会社員か、自営業者かによって、夫を亡くした妻の年金は大きく異なってきます。年金で暮らせなければ、生活保護を受けるしかありません。
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生徒:私たちはどうすればよいのでしょうか?
先生:働き続けるしかないでしょう。高齢者の就労環境の整備が進んでいますので、身体が動く限り働き続けるのです。そして、年金の繰下げ受給をおこない、毎月の年金額を増やすようにします。75歳まで受給開始を繰り下げることができれば、65歳でもらう年金額の1.8倍を、毎月もらえるようになります。
生徒:私たちの老後は本当に厳しいですね…。私も、とりあえず働くことを考えます。「命はあるがお金がない」という状況だけは回避したいですね。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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