「仕事熱心で有能、人望も抜群」な経理責任者が辞めたのに、かえって「強い会社」になったワケ【専門家が解説】

「仕事熱心で有能、人望も抜群」な経理責任者が辞めたのに、かえって「強い会社」になったワケ【専門家が解説】

企業が成長するうえで大事なことは「経営方針」を確立し、全メンバーがそれに従って行動することです。そのスタートラインとしてまず「コアバリュー」(共有すべき価値観)を明確にしなければなりません。本記事では、アメリカ発の起業家のための経営システム「EOS(the Entrepreneurial Operating System)」の専門家である久能克也氏が、事例を通じてコアバリューの重要性を解説します。

社長の決断…飛躍に向けて「ビジョン」づくりをスタート

そんななか、社長は会社の次の飛躍に向けて、「ビジョン」づくりから始めることにしました。「ビジョン」とは、会社の未来を描くものです。 意思決定を担当する「経営チーム」が結成され、そのメンバーに篠原課長も選ばれました。

 

まずは「コアバリュー」から取り組むことになりました。「コアバリュー」とは、組織の全員が共有すべき価値観、考え方、行動規範のことです。ビジョンとは「将来のこと」だと思っていた経営チームメンバーは少々戸惑いましたが、全員で取り組むことになりました。そして、半日のワークセッションを経て、経営チームは次のようなコアバリューを決定しました。

 

1. 謙虚かつ自信に溢れる

2. ヘルプ・ファースト(まず手を差し伸べる)

3. 正しいことをする

4. 言行一致

5. 成長なくば衰退

 

コアバリューを全社に浸透させるためには、まず、社長をはじめとする経営チームのメンバーがその価値観を体現することが求められます。篠原課長もまた、コアバリューを心から受け入れ、体現する姿勢を見せていました。

 

「ピープルアナライザー」で経営チームのコアバリューを診断

コアバリューが決定したら、社長は「ピープルアナライザー」というツールを用い、経営チーム全員のコアバリューの診断をスタートしました。「ピープルアナライザー」は、コアバリューの各項目について、1人ひとりを「+」「+/-」「-」の三段階で評価するものです。

 

もちろん社長も例外ではありません。全員が不安そうに視線を落とすなか、社長は改めて説明を行いました。

 

すべて「+」がつけば申し分ありませんが、人間は完璧ではありません。「+/-」も最大2つまで許容範囲です。しかし、「-」は1つも許されません。なぜなら、「-」がつく人が会社にいると、「+」で頑張っている人の足を引っ張ります。それではコアバリューは浸透せず、カルチャーは生まれないからです。

 

[図表]は、「ピープルアナライザー」による分析結果です。 気まずい思いをしながらもオープンで正直に、全員が全員のコアバリューを評価した結果です。

 

[図表]A社経営チームの「ピープルアナライザー」による分析結果

 

この結果には多くの人が驚きました。全員の視線が篠原経理課長に向かいました。「篠原課長、この結果について何かいいたいことはありますか?」社長の問いに対し、篠原課長は言葉を絞り出せずに黙ってしまいました。

 

その後、社長は篠原課長と個別に面談し、思い当たる範囲で、彼女の行動がコアバリューに反すると考えられる具体的なケースを挙げ、改善を促しました。篠原課長は混乱していましたが、社長から指摘されたことについては、本人なりに改善の努力をみせていました。

 

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